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島本理生の直木賞受賞第一作! 男女の心情を細やかに描いた六篇

あなたの愛人の名前は

 島本理生さんの直木賞受賞第一作となる本書『あなたの愛人の名前は』(集英社)。何ともドキッとさせられるタイトルだ。J-CAST「BOOKウォッチ」では島本さんの『ナラタージュ』(角川文庫)、第159回直木賞受賞作『ファーストラヴ』(文藝春秋)『夏の裁断』(文春文庫)を紹介済みだが、島本さんの描く男女は、うっすらとベールがかかったように神秘的で惹かれるものがある。本書では、どんな人物がどんな恋愛模様を繰り広げるのだろう...と期待が膨らむ。

 本書は、すれ違う男女の心情を繊細に描いた六篇――「足跡」「蛇猫奇譚」「あなたは知らない」「俺だけが知らない」「氷の夜に」「あなたの愛人の名前は」――が収録されている。六篇の中でやや異色に感じた「蛇猫奇譚」と、男女の視点から対を成す「あなたは知らない」「俺だけが知らない」を紹介したい。

 「蛇猫奇譚」の主人公は、飼い猫・チータ。三年前にハルちゃんに拾われ、ハルちゃんが結婚した今も「ボクを一番に可愛がってくれる」と満足している。ところが、近頃のハルちゃんは機嫌が悪く、吐くこともあって気になっていたところ、旦那さんが「チータ。今年の夏にはうちに赤ちゃんが来るぞ」と言った。出産を終えて、自宅で赤ちゃんの世話をするようになったハルちゃんは「チータっ。あっち行って!」「耳が尖っていて、尻尾の長い生き物にしか見えないのよ」と冷たく言い放った。チータは、ハルちゃんの異変にショックを受けるが、チータに対するハルちゃんの攻撃的な態度はエスカレートして......。

 「あなたは知らない」では、「独身のうちにちょっとくらい遊んだら?」と友人に誘われて行ったバーで、瞳は浅野と出会った。瞳は婚約者と同棲しながら、浅野と定期的に会う生活を送っている。

 「ごく真っ当に段階を踏んできたし、逸脱やスキップまでして手に入れたいと思ったことはなかった。どうして浅野さんにだけ私が私でなくなってしまうのか、自分でも説明がつかなかった」

 「俺だけが知らない」では、瞳が自身を見失うほどの恋をした浅野の視点から、瞳に対する想いが語られる。

 「瞳さんとは、恋でもなければ愛でもない。それは自覚があって、そういうものを自分が求めていないことだけはなんとなく分かる。これ以上なにかを動かしたり変えたりする意思は、自分の中にまったくないことも」

 瞳は婚約していたが、そのことを浅野に正直に告白することもなかった。一方の浅野は、曖昧な言動と態度をとり続けたものの、嘘はつかなかった。二人の想いのすれ違いは、次第に大きくなっていく。最終的に瞳は、浅野にとって予想外の行動に出る......。

 「足跡」「あなたは知らない」などは、現実にはなかなか実行に移せない、秘密の恋愛を疑似体験できる。本書を読み、恋愛を通して湧き上がってくる数々の感情について、丁寧に向き合い、繊細に描ききる島本さんの筆力を改めて感じた。

 島本理生さんは、1983年生まれ。2001年「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞。03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞を受賞。15年『Red』で島清恋愛文学賞を受賞。『アンダスタンド・メイビー』『よだかの片想い』『イノセント』『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』など著書多数。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 あなたの愛人の名前は
  • 監修・編集・著者名島本 理生 著
  • 出版社名株式会社集英社
  • 出版年月日2018年12月20日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784087711714

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