読むべき本、見逃していない?

若手と新人を抜擢した豊臣秀吉

  • 書名 豊臣家臣団の系図
  • 監修・編集・著者名菊地浩之 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年11月10日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・338ページ
  • ISBN9784040823256

 本書『豊臣家臣団の系図』(株式会社KADOKAWA)を読んでいるときに、ネットで豊臣秀吉について興味深い記事を見た。「豊臣秀吉には指が6本あった」というのである。

 先日見た記事は、その根拠として、宣教師ルイス・フロイスが残した「日本史」という文献と、秀吉の重臣だった加藤清正の言行録「国祖遺言」という文献に、そう書いているというので多少信憑性が高いと思った。読んでいるうちに、そういえばこの話は以前、朝日新聞にも出ていたことを思い出した。

 うまれつき指が多いのは「多指症」といい、現在でもそう珍しくはないそうだ。1000人に1人の確率で発生し、幼児期までに手術で整形するのが普通だ。しかし、秀吉の時代には「奇形」ということで間引きされていた可能性が高かったとも。そうならなかったのは農民の生まれでそこまでの余裕がなかったからなのか。ともあれ、当時の下層階級の出身だった秀吉は、その後の家来の引き立て、家臣団の形成においても独特のポリシーで臨んだことが、本書に縷々書いてある。

企業系列の研究から家臣団の系図研究へ

 著者の菊地浩之氏の経歴が面白い。歴史の研究者やもの書きではない。1963年生まれ。國學院大學経済学部を卒業後、ソフトウェア会社に入社。勤務のかたわら論文・著作を発表。06年、國學院大學博士(経済学)号を取得。専門は企業集団、企業系列の研究だ。著書に『企業集団の形成と解体』(日本経済評論社)、『日本の地方財閥30家』(平凡社)などのほか、歴史関連では『織田家臣団の系図』(株式会社KADOKAWA)がある。本書はその続編になる。

 ソフトウェア会社の仕事と企業系列の研究が、本書に独特の個性を与えている。実に精密な家系図だ。歴史書でもここまで精緻で見やすいものはあまり見たことがない。本書の構成は以下の通り。登場する主な名前はこうだ。

第1章 豊臣一族 秀吉とその兄弟、三人の甥、秀吉の妻子、養子・養女、養子・羽柴於次秀勝、知られざる養子・長吉
第2章 親族衆 浅野家、杉原・木下家
第3章 小六世代 蜂須賀正勝・家政、生駒親正、前野長康、谷衛好
第4章 二兵衛世代 竹中半兵衛と黒田官兵衛
第5章 七本槍世代 秀吉の従兄弟・福嶋正則、加藤清正、尾張津島衆・平野長泰、三河出身・加藤嘉明、近江出身・脇坂安治、七本槍ではないが藤堂高虎
第6章 秀次家臣団 近江から東海へ 田中吉政、山内一豊、中村一氏、堀尾可晴
第7章 六人衆から五奉行へ 石川光政・光重、蒔田広光、寺沢広政、前田玄以、石田三成、大谷吉継
第8章 秀頼家臣団 片桐且元、小出秀政・吉政、青木重吉・一重
補章 五大老の閨閥 毛利輝元、宇喜多秀家、前田利家、上杉景勝、徳川家康

地元出身を登用した信長

 まず前著『織田家臣団の系図』を要約して、織田家臣団の二大派閥を象徴していたのが、柴田勝家と丹羽長秀だったと書いている。秀吉は羽柴姓を名乗っているが、「丹羽+柴田」に由来する苗字だとしている。国人領主層の柴田と傭兵上がりの旗本、丹羽を「ボンボンの慶大卒と奨学生の東大卒」とたとえている。

 本書で「豊臣家臣団」の対象としているのは、天正10年(1582)の本能寺の変まで、秀吉に仕えていた者だ。具体的には尾張、美濃、近江、播磨出身者+アルファ。

 前著では、信長が大名に登用した家臣のほとんどが尾張三郡(愛知郡・海東郡・春日井郡)の出身者、もしくは永禄元年(1558)頃までに仕えた者だと指摘した。しかし、豊臣家臣団にはそのような地域特性はないという。では特徴は何か。菊地さんは「年齢」、それも「若さ」を挙げている。優先されたのは「実績」よりも「若手と新人」だったというのだ。これに比べて徳川家臣団はもっとシニア偏重だという。

 本書では「武断派」と「文治派」にわけて徹底的に分析している。

 評者が関心をもって読んだのはここまでだ。個々の家系の詳細についてふれるのは省略したい。それぞれの家系図は数世代にわたり、実線と破線が入り乱れて書かれている。実線は親子関係、破線は婚姻関係を示す。相当に優秀な家系図ソフトを使わないと、ここまで見やすいものは作れないだろう。

 ちなみに2012年に毎日出版文化賞を受賞した服部英雄氏(九州大学名誉教授)の『河原ノ者・非人・秀吉』(山川出版社)では、様々な文献を精査すると、秀吉は高い確率で「非人」に身分を落していることが分かると指摘している。その後、位を極めた背景には、若手を優先した秀吉独自の人事方針があったのだろうか。そんなことを考えた。

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