読むべき本、見逃していない?

富士山測候所の「カンテラ日誌」も廃棄処分になっていた・・・涙、涙。

  • 書名 国家と記録
  • サブタイトル政府はなぜ公文書を隠すのか?
  • 監修・編集・著者名瀬畑源 著
  • 出版社名集英社
  • 出版年月日2019年10月17日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・240ページ
  • ISBN9784087210965

 本書『国家と記録』(集英社新書)は公文書問題に詳しい瀬畑源さんの最新刊。副題に「政府はなぜ公文書を隠すのか?」とあるが、大方の読者は「そんなこと、わかっているよ」という感じではないだろうか。安倍政権になって公文書の隠ぺいや改竄が繰り返されている。今や慣れっこになってしまった。

「ダメなものはダメ」

 瀬畑さんは1976年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。立教大学兼任講師、成城大学非常勤講師などを務める。すでに『公文書問題 日本の「闇」の核心』 (集英社新書)など類書を何冊も出しており、公文書問題の第一人者だという。

 本書は、『時の法令』という雑誌に2017年末から19年春まで連載した文章を加筆修正したもの。「第一部 公文書の危機」「第二部 公文書管理をどうすべきか」「第三部 未来と公文書」「第四部 対談 情報公開と公文書管理の制度をどう機能させるか 三木由希子×瀬畑源」の4部構成になっている。

 第一部では、森友、加計、イラク日報問題など。第二部では皇室会議の議事録、行政文書のガイドライン改正、電子メールは行政文書か、政府の公文書管理適正化の取り組みをどう考えるかなど。第三部では、行政文書の定義から外れる「歴史的文書」の保存問題、地方公共団体の公文書管理問題を考える、アジア歴史資料センターなど。最終章で登場する三木さんは特定非営利活動法人情報公開クリアリングハウス理事長。情報公開について、市民サイドで活動する第一人者として著名だ。

 本書の「帯」でライターの武田砂鉄氏が「私たちはこの数年で、公権力が文書を隠し、捨て、開き直る光景に慣れてしまった。しかし、ダメなものはダメ」と本書にエールを送っている。

アメリカの要請で情報公開

 概ね報道された話が多いが、まず大前提として日本の情報公開をプッシュしたのは日本政府ではないということ。一つは、情報公開を求める市民の運動であり、もう一つはアメリカの要請だったという。1980年代に日本の経済力が高まり、米国との軋轢が増す。そうした中で、日本の企業は米国の情報自由化法で米国の役所から米国企業の情報を入手できるが、日本側では公開されておらず、日本の官僚制が、自由な経済活動を阻害している不満が米国側で高まる。米国側は日本に、行政手続きの透明化や情報公開制度の導入を行うように求めてきた。それを受けて日本では1993年に行政手続法が定められ、2001年になって情報公開法が施行した、という側面があるという。

 ところが情報公開を請求しても「不存在」として公開されないケースが多発する。役所の側でも、どこに何の資料があるのか、きちんと把握できていない。そこで公文書管理法が必要ではないかという声が出てくる。福田康夫首相(2007~08)が熱心に取り組んだことで知られている。福田氏は19年1月28日の毎日新聞のインタビューでも、首相の記録を保存するルールを作るべきだと提言、「主権者の国民が正確な事実を知ることができるようにする義務がある」「日本のかたち、つまり歴史を残すこと」を理由として挙げている。きわめて真っ当なスタンスといえるだろう。

公文書管理法に則っていない

 これも報道済みのようだが、本書では二つのことが記憶に残った。一つは、皇室会議の議事録が未作成だということ。皇室会議のメンバーは首相や衆参両院の議長・副議長、宮内庁長官、最高裁長官、皇族など10人。皇室典範によって設置が決められ、皇位継承などを審議する機関だが、2017年12月1日、天皇の退位の日程についての意見聴取のために開かれた会議では議事録が作成されなかったという。「国民がこぞってお祝いすべき日に関するものであり、誰がどのような意見を述べたかということを明らかにすることは、必ずしも好ましいことではないので、個々の意見や発言者名は記載せず、結論とその考え方を記載した形の議事の概要を作成し、公表することが合意された」そうだ。

 瀬畑さんは、公文書管理法では、「関係機関の長で構成される会議」は「経緯」がわかる文書を作成することになっているので、当然この皇室会議の議事録は作成されるべきだったとしている。

 もう一つは、「カンテラ日誌」の廃棄。富士山の測候所では1936年以来、職員が「カンテラ日誌」と呼ばれる日誌を綴ってきた。日々の業務や苦労話を記している。測候所は2004年に無人化されたが、日誌は全部で44冊残っていたはずだった。ところが2018年に毎日新聞が気象庁に情報公開を求めたところ、17年11月以降に「文書整理の一環」として他の行政文書と一緒に溶解処分されていたことがわかった。気象庁の担当者によれば「毎日の出来事や感想を個人的に書き留めたもの。職務ではなく、行政文書に当たらない」ということが理由だ。この日記は過去には気象庁の冊子にも引用され、富士山関係の本にも登場している。血と汗がにじむ貴重な「歴史資料」であったことは確かだと思われる。後輩の杓子定規な扱いに、富士山測候所で頑張った先輩たちも涙ぐんでいることだろう。

 本書にはこのように、雲の上の会議から、末端の職員にまつわる話まで盛りだくさん。筆致は冷静であり、情報公開や公文書管理にかかわる公務員だけでなく、一般の公務員、マスコミ関係者、このジャンルに関心を持つ学生ら向きの一冊だ。

 BOOKウォッチでは関連で、『公文書館紀行(第二弾)――取材から見えてきた「今、問われる公文書」』(丸善プラネット)、『武器としての情報公開』(ちくま新書)、『情報公開讃歌――知る権利ネットワーク関西30年史』(花伝社)、『監視社会と公文書管理――森友問題とスノーデン・ショックを超えて』(花伝社)なども紹介している。

オンライン書店で詳しく見る(購入もできます)

デイリーBOOKウォッチの一覧

一覧をみる

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!

おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

出版社の皆様!

御社の書籍も、
BOOKウォッチに
掲載してみませんか?

sub