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お役所の「黒塗り」回答にもへこたれず30年

情報公開讃歌

 情報公開というと、最近ではマスコミ関係者が請求して、中央官庁がしぶしぶ応える、というイメージがある。つまり、基本的にマスコミが仕事でやることだと思われがちだ。ところが本書『情報公開讃歌ーー知る権利ネットワーク関西30年史』(花伝社)は、それはちょっと違います、と主張する。情報公開の主役は、マスコミではなく市民だ、というのだ。

旧労働省系は一貫して消極的

 本書の中心となっている「知る権利ネットワーク関西」が旗揚げしたのは1988年のことだ。「情報公開法」、すなわち国の行政機関が保有する資料を、原則として公開することを定めた法律が施行されたのは2001年だから、10年以上も早い。なぜ法律よりも先んじていたのか。

 実は、情報公開は、国よりも地方が先行したという歴史的経緯がある。1982年に山形県金山町が、83年には神奈川県と埼玉県が、情報公開手続きに関する条例を定めたのが先駆けだ。その後も続々条例が出来た。国の情報公開法は、そうした地方の条例の積み重ねの後に重い腰を上げた格好なのだ。

 それゆえ、地方では市民レベルの粘り強い活動の実績がある。「知る権利ネットワーク関西」はそうした中でも、特にしぶとく地方自治体などと交渉してきた組織として知られる。その30年に及ぶ歴史を振り返ったのが本書、というわけだ。

 第1章は「コピー裁判」。「知る権利ネットワーク関西」元事務局長の主婦野村孜子さんが、堺市の市議会議員の資産報告や政務活動費のウソを法務局で登記簿を調べ、所有する不動産の実態を現地でチェック、権力の壁に挑戦しながら暴いた記録だ。第2章は、ダム建設をめぐる追及。現事務局長の高校教師江菅洋一さんが、大阪市北部に建設されるダムの地下に地震で動く断層があるのではないかと疑い、地質解析調査報告書を公開請求し、最高裁まで争って勝訴した事例だ。本書では、「黒塗り」にもへこたれず、挑戦を続けたいくつもの活動実績が掲載されている。

 そうした中で本書では、厚労省の旧労働省系が一貫して情報公開に消極的なことも指摘されている。労働者を守る立場でもあるのに、どうなっているのか。

「情報公開請求ツアー」70回

 多数の執筆者がそれぞれの経験などを記している。その肩書や所属を見ると、「守口・情報公開を学ぶ会」代表、「南河内市民オンブズマン」、「奈良情報公開をすすめる会」事務局長、「新しい神戸をつくる市民の会」顧問など、地域に根差した名前が目立つ。このほか「教育情報の開示を求める市民の会」代表、元「情報公開を求める市民運動」代表、弁護士、元市議、元朝日新聞記者、フリージャーナリスト、大学教員などの名前もある。

 会では「情報公開請求ツアー」も実施している。市民が集団で自治体や国に一斉に公開請求を行い、情報公開制度の利用促進をアピールし、公務員の意識改革を促すことを狙ったものだ。これまでに70回もやってきたという。

 本欄で紹介した『武器としての情報公開』(ちくま新書)でも、情報公開制度は「民主主義の根幹をなす制度」であり、「ジャーナリストだけでなく、すべての人々に開かれている」「誰もがこの制度を『武器』として使い、情報を手に入れて政府や自治体と対等に渡り合うことができる可能性を秘めている」ことが強調されていた。その意味では本書の30年に及ぶ市民活動の記録は、これから情報公開制度をもっと活用したいと思っている人にとって、極めて有意義なテキストとなるに違いない。

 本欄では『監視社会と公文書管理』(花伝社)、 『公文書問題』(集英社新書)なども紹介済みだ。また、南スーダンPKOに関する防衛庁の対応については、『日報隠蔽』(集英社)を紹介している。同書は18年度の「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞草の根民主主義部門 大賞」を受賞した。このほか重要情報が隠蔽されていた戦前の日本の姿については、『機密費外交』(講談社)、 『軍事機密費』(岩波書店)なども紹介している。

  • 書名 情報公開讃歌
  • サブタイトル知る権利ネットワーク関西30年史
  • 監修・編集・著者名知る権利ネットワーク関西 著
  • 出版社名花伝社
  • 出版年月日2018年12月10日
  • 定価本体1700円+税
  • 判型・ページ数四六判・256ページ
  • ISBN9784763408709
 

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