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日本最大の読書サークル主宰者が学生時代に愛読した本は?

読書会入門

 「猫町倶楽部」という大きな読書会グループがある。本書『読書会入門――人が本で交わる場所 』(幻冬舎新書)はその主宰者、山本多津也さんの初の書著だ。読書会をつくった経緯や概要、意義や効果などについて詳しく説明している。これから自分でも読書会をやろうとしている人、あるいは参加したいと思っている人には大いに参考になる。

年に9000人が参加

 猫町倶楽部は2006年、前身の読書会が名古屋でスタート。現在は東京、大阪など全国5都市で年に200回ほど開かれている。一年間の参加者は延べ約9000人。一度に集まった人数は最大で約300人。参加者の年代は10代から60代まで。日本には数多くの読書会があるそうだが、その中でも最大規模だという。

 ビジネス書から哲学書、文学書、評論、エッセイなど何百冊もの本を取り上げてきた。課題本は常に山本さんが選び、それを参加者が事前に読んで出席する。唯一の条件は「読了していること」だという。

 山本さんは1965年、名古屋市生まれ。住宅リフォーム会社の経営者だ。読書会をやるようになったのは、かつて「経営セミナー」に出た時の講師の言葉がきっかけだ。

 「おそらく今日、このセミナーから帰って、"いい話を聞いたなあ"と思うだけで、何も実行に移さない人が8割です。また、実行に移したとしても、それを継続できる人は、その中のさらに2割程度でしょう」

 セミナーに来ても、ほとんどの人が何も身につけることが出来ないとは・・・。ならば、いったいどのような形のセミナーなら、より自然に学べ、継続できるのだろうか、と考えた。

 まず自分で本を読む。そこで学んだことを生かすために仲間をつくる。4人のメンバーで06年9月、カーネギーの『人を動かす』を課題本として初の読書会をやってみたところ、想像以上の高揚感があった。そこで月一回の読書会を定例化した。会場は名古屋市内のJAZZ茶房「青猫」を借りた。

 そのうち地元の中日新聞に取り上げられ、NHKの朝のニュースにもなって会員が増える。取り上げる本もビジネス書にとどまらず、文学関係にも広がった。会員の転勤先の東京などでも開催するようになり、山本さんが好きな萩原朔太郎の短編『猫町』にちなんで、会の名前も「猫町倶楽部」とすることにした。

 知名度が上がると、ゲストも呼べるようになった。『カラマーゾフの兄弟』などドストエフスキーの訳で知られるロシア文学者の亀山郁夫氏、英文学者の柴田元幸氏、美術家の会田誠氏らそうそうたる人々だ。映画の感想を語り合う「シネマテーブル」、哲学サロン「フィロソフィア」など、いくつかの分科会もできた。

「猫町婚」が60組

 それにしても「住宅リフォーム業者」と「読書会」とは世間常識では距離がある。何か秘密があるのだろうか。本書によれば、出身高校は名古屋の男子校。東京の大学に入って大いに羽根を伸ばし、ディスコを拠点とする大学生中心の「チーム」に所属、他人より1年多い5年間、ほぼ毎晩、六本木を拠点に遊びまわっていたという。そうした学生時代からは、「読書」とのストレートなつながりが見えてこないが、本書を丁寧に読むと、少し引っかかるところがチラつく。

 例えば遊び歩いていた学生のころも、「POPEYE」や「BRUTUS」などの雑誌は毎号チェックしていたという。ニューアカの時代ということで中沢新一、浅田彰、柄谷行人らが連載を持ち始めていた。難しそうな本を手に取ることはなかったというが、この種の雑誌を通して、同時代の「若者たちの神々」には触れていたようだ。栗本慎一郎氏の『パンツをはいたサル』には特に衝撃を受けたという。

 のちに読書会の名前を、萩原朔太郎の作品から取ったというあたりも、なかなかの粋人ぶりがうかがえる。

 学生時代に、いわゆる「遊び人」の集団にいたことは、「猫町倶楽部」のキャパシティを広げることにも役立っているようだ。AV監督をゲストとして招いた会では、なんと300人が集まり、参加者にはゲストからコンドームやアダルトグッズがプレゼントされたという。

 分科会の中には、大人の性愛をテーマにした課題本を扱う「猫町アンダーグラウンド」もある。隊長を務めているチアキちゃんは自称「経験人数1000人超」「一日に、最高26人」。この読書会では参加者全員が仮面をつけることになっている。参加者の中には全身入れ墨の男性もいるという。

 変わったメンバーでは、中村淳彦さんの話題作『ルポ 中年童貞』のモデルとされる人物もいる。いわゆる「ネトウヨ」だが、膨大な読書量を誇っているそうだ。参加者からは、ほぼ二か月に一人、「猫町婚」が生まれ、これまでに60組以上になるという。

ここでもアウトプットの重要性

 本書は「第一章 読書会が人生を変えた」、「第二章 読書会とは何か?」、「第三章 読書会の効果」、「第四章 読書は遊べる」、「第五章 読書会は居場所になる」、「最終章 『みんなで語る』ことの可能性」に分かれている。

 巻末には、猫町倶楽部で取り上げた本のリストがずらっと掲載されている。エーリッヒ・フロム『愛するということ』、『古事記』、マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』、フランクル『夜と霧』、新渡戸稲造『武士道』、的場昭弘『超訳「資本論」』、E・H・カー『歴史とは何か』、福沢諭吉『学問のすゝめ』、ドラッカー『経営者の条件』、ナボコフ『ロリータ』、『老子』、カフカ『城』、村上春樹『ノルウェイの森』、小林秀雄『モオツァルト・無常という事』、『カラマーゾフの兄弟』、泉鏡花『高野聖』、中村うさぎ『私という病』などなど多彩だ。基本的にベストセラーは除外しているというが、『銃・病原菌・鉄』、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』、『これからの「正義」の話をしよう』などもある。

 このレベルの書を何百冊も、実業のかたわら選んで読書会を続けるのは並大抵のことではない。山本さんは「本業4割、猫町6割」の生活だという。どうしてそんなに熱心にやっているんですかという質問をよくされるが、本書では「根っからの飲み会幹事」の性分だと説明している。そしてホイジンガや梁塵秘抄を引用しながら、今の日本に「大人の遊び場」が少ないことを憂えている。猫町倶楽部は「遊びと学び」を同時に満たす場だというわけだ。いずれにしろ、読書サークル主宰者としての活動と知名度は、本業にも有形無形にプラスにはなっていることだろう。

 本書には著者の体験的な一言が多数掲載されているが、その一つが、「アウトプットなしにはインプットと呼べない」。ただ読むだけではなく、読書会という場で感想を発言することでインプットがしっかりするという趣旨だ。

 読書におけるアウトプットの大切さは、月間500冊を読む作家の佐藤優氏も『調べる技術 書く技術』(SB新書)で書いていた。齋藤孝氏も『本は読んだらすぐアウトプットする!』(興陽館)ことを強調している。山本さんも期せずしてこうした「読書の達人」と同レベルに達している。

 BOOKウォッチでは、読書の大切さについては丹羽宇一郎氏の『死ぬほど読書』(幻冬舎新書)や池田大作氏の『私の履歴書』(聖教新聞社出版局)、「セカオワ」藤崎彩織さんの『読書間奏文』(文藝春秋)など多数紹介。大学生と読書の関係では『書評キャンパスat読書人2017』(読書人刊)、『東大生の本の「使い方」』(三笠書房)なども取り上げた。また猫町倶楽部の活動については「『猫町倶楽部』と『オトバンク』がコラボ! オーディオブック読書会」で簡単に伝えている。

  • 書名 読書会入門
  • サブタイトル人が本で交わる場所
  • 監修・編集・著者名山本多津也 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2019年9月26日
  • 定価本体780円+税
  • 判型・ページ数新書判・182ページ
  • ISBN9784344985735
 

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