読むべき本、見逃していない?

あのベストセラー手がけた敏腕編集者はなぜ2年で自分の出版社をつぶしたのか?

共犯者

 表紙に自分の目をさらした写真。本書『共犯者』(駒草出版)の著者、芝田暁(あきら)さんは、エンターテインメント系の伝説的な編集者だ。二十数年前、文化記者時代に評者は幻冬舎の編集者だった芝田さんから本の売り込みを受けた。その時の印象は今でも残っている。持ってきたのは梁石日(ヤンソギル)の『血と骨』。その後ミリオンセラーとなり、ビートたけし主演で映画化(2004年)もされた。梁の実父をモデルにした強烈な作品だが、本書を読み、本が生まれるまでに芝田さんが尋常でなくかかわっていることを知った。

伝説の編集者のちょっと早い自伝

 編集者は黒子であるべきと表に出ない人もいるが、編集者が書いた本は実はかなり多い。その中でも本書は自伝的内容が濃厚なのが異色と言えよう。「芝田」と聞いてマルクス主義者で哲学者の芝田進午を思い浮かべた人もいるだろう。芝田さんはその息子である。自宅から1分の早稲田大学第一文学部を卒業したものの、ほとんど学校には行かなかったという。出版社の入社試験は全滅。唯一内定をもらったのがマルクス=エンゲルス全集を出していた学術系出版社の大月書店だった。大月から本を出していた父親への配慮もあっただろうと、推測している。

 しかし、肌が合わず1年で辞め、徳間書店に転職、西村寿行の担当になる。週3回通っても無視されることが3カ月続いた。ようやく認められ、ある日試練を迎える。徳間にとって最重要作家の一人だった大藪春彦が亡くなったのだ。追悼するため雑誌の増刊号を出すことになり、西村にも追悼文を依頼したが断られる。二人は犬猿の仲だった。しかし、「自分の記憶を話すので後は勝手に書いておけ」と言われ、必死で談話を書き起こした。徳間の年末パーティーで初めて会い、「射撃の腕比べで、私と勝負しろ」と大藪が挑発し大喧嘩になりかけ、以後会ったことがなかった二人。「(前略)殴り合えば痛みがわかる。同じ痛みを共有すればそれだけで友人だ。(中略)繰り返すが、あの時、喧嘩をしておけばよかった。それだけである」(談)と結んだ文章を西村はそのまま通してくれた。下手なことを書けば、出禁どころかクビになりかけないピンチをなんとか乗り切った。

 以後、芝田さんの快進撃は続く。荒巻義雄『紺碧の艦隊』シリーズをヒットさせ、ノベルスで注目した浅田次郎の最初の単行本となる『プリズンホテル』を手がける。

 そしてその後長く続く梁石日との「共犯関係」が始まる。別の出版社から出した作品が直木賞を受賞しなかった梁は、12時間以上親しい在日朝鮮人や友人たちと飲み続けたという。そのバイタリティーに驚いた芝田さんは、次作を担当し、直木賞を受賞してもらおうと決意する。

 タイトルは『雷鳴』。出社前に梁の自宅に原稿を取りに行き、帰りにも立ち寄り、続きの原稿をもらった。土日も休まず通った。2か月で320枚が脱稿、刊行したが、直木賞候補にならなかった。すぐに徳間が出していたオピニオン月刊誌「サンサーラ」で『血と骨』の連載を始めた。だが、経営が苦しくなった徳間は「サンサーラ」を休刊する。幻冬舎に引き抜かれた芝田さんは、『血と骨』を幻冬舎から出すことを梁に承諾してもらう。徳間からの申し出とタッチの差だった。

梁人脈と出会い、出版社創業するが

 こうして苦労した『血と骨』は、山本周五郎賞は受賞したが、直木賞は候補になったものの受賞は逸した。その後、芝田さんは梁作品の映画化に奔走、梁人脈との出会いから新たなスタートを切る。

 そして自分で「スパイス」という出版社を興すが、2年半でつぶしてしまう。巻末には在籍した5社ごとに担当した215冊のリストがある。そうそうたるものだし、本文の活躍譚も生き生きとしている。だが、創業した出版社の倒産という苦い失敗を書くことによって、ようやく出版の裏も表も見えてくるのだ。

 芝田さんは現在、朝日新聞出版で編集者ではなく「宣伝プロモーション部専任マネジャー」という肩書を持つ。自分の意志で異動願いを出し、いったん編集者を「退場」したという。

 本書は早稲田大学文学部文芸科での芝田さんの講義が原型となっている。ほとんど行かなかった学校なのに講義をしてもらうというのも早稲田らしい。出版社を志す若者には最良のテキストになるだろう。円満退社したという幻冬舎の見城徹社長が帯に「血と汗と涙が飛び散る、稀有な『編集者血風録』である」という推薦の辞を寄せている。

 編集者の関連本として本欄は『本屋風情』『編集者 漱石』『時代を創った編集者101人』『職業としての編集者』『編集ども集まれ!』『[実践]小説教室』などを紹介している。

 
  • 書名 共犯者
  • サブタイトル編集者のたくらみ
  • 監修・編集・著者名芝田暁 著
  • 出版社名駒草出版
  • 出版年月日2018年11月14日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・323ページ
  • ISBN9784909646040

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