最近、立花隆さん(78)のお名前を見かける機会が減ったような気がする。月刊「文藝春秋」の連載は続いているが、単行本の「大作」は出てないようだ。10年ほど前に膀胱がんを患ったというから、おそらく仕事をセーブされているのだろう。
本書『立花隆のすべて』(文藝春秋)は1998年に出版され、その後、上下二巻の文庫本にもなっている。「知の巨人」と言われる立花さんの多彩な業績が、関係者の証言をもとにわかりやすくまとまっているので便利だ。
立花さんは東大の仏文を出て文藝春秋に入り、週刊誌の記者などをした後、改めて東大の哲学科で学んだ。その後、ルポライター、ジャーナリストとして活動を再開、1974年に月刊「文藝春秋」に「田中角栄研究」を発表してセンセーションを巻き起こす。以後、政治、社会、宇宙、生命、先端科学などジャンルを超えて文明論的な多数の著作を書きまくってきた。
本書はそうした立花さんのエネルギッシュな活動を、間近で見てきた関係者が、それぞれの体験をもとに振り返ったものだ。第一章「『好奇心』と『探究心』」では立花さん自身が自らを語り、第二章の「ぼくはこんな風に生きてきた」は、ゆかりの関係者による立花さんへのインタビューで構成されている。「『橘隆志』が『立花隆』になるまで」「『田中角栄研究』と『日本共産党の研究』」「ロッキード裁判への執着」など、それぞれ立花さんと深い接点があった人がインタビュアーになっているから内容が濃い。
さらに第三章の「『立花隆』とはなにか?」では、梅原猛、野坂昭如、筑紫哲也、梨元勝の各氏らが一文を奏している。
とりわけ役立つのは第五章の「立花隆を読む」だ。立花さんの主要な著作について、その道の有名人が解説を加えている。『田中角栄研究全記録』については堀田力さん、『電脳進化論』は坂村健さん、『脳を究める』は養老孟司さん、『サル学の現在』は河合雅雄さん、『僕はこんな本を読んできた』は出久根達郎さん、『脳死』は近藤誠さん、『インターネット探検』については村井純さんが書いている。
戦後のジャーナリストのなかで、立花さんの特徴はどこにあるのか。なぜ「知の巨人」と言われるのか。読者にとってはそこが一番知りたいところかもしれない。ざっと眺めた中で、なるほどと思ったのは、「週刊朝日」のデスクとして「田中新金脈追及」などで一緒に仕事をしたという蜷川真夫・現ジェイキャスト会長の分析だ。
それによると、立花さんは仮説の組み立て方が優れている。そのためには精緻な情報の分析が必要になるが、「この点で立花隆は天才だ」という。膨大な資料を読みこなし、情報を見事に整理する。強くて広い好奇心が、分析の馬力になっているという。
しばしば「知の巨人」と称される立花さんが、実際には「好奇心の巨人」であり、「分析と仮説の巨人」だということが分かる。
立花さんは、「チーム取材」で名を上げた。『田中角栄研究全記録』の取材では、100人以上が取材チームに関わったと書いてあった。巻末にその全氏名が出ていた。多数の取材陣を率いると、金もかかるはず。マスコミの一部では、そのあたりを揶揄する人もいないわけではない。
だが、チーム取材を率いるというのは、実は大変なことだということが、蜷川氏の指摘からわかる。多数のメンバーに的確な指示を出し、彼らが持ち帰った情報をきちんと整理して再構築する。そのためには、司令塔に高い能力が要求される。
本書では、立花さんの書庫やデータ整理の方法などが写真入りで紹介されているが、蜷川氏は、そうした整理法は「われわれ凡人とは変わらない」とみなす。
「凡人と違うのは、膨大な情報がまるでコンピューターで呼び出すように、立花隆の頭の中では整理されているという点だ」
取材で基礎的なデータを広範に収集し、それらをもとに仮説を立て、さらに深いシークレットな情報の存在を嗅ぎ付けていく。こうした取材方法は近年、各マスコミの中で幅広く行われるようになっている。森友・加計問題などもそうだし、NHKスペシャルなどは典型だろう。それぞれのキーマンは、はたして「立花隆」になりえているだろうか。本書からマスコミ関係者が得られるヒントは多いはずだ。
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