LGBT(性的少数者)の学生を対象にした就職説明会が開かれたというニュースを先日見た。ずいぶん社会も寛容になったと思った。この小説の主人公、小笹一夫が働きはじめた1985年頃は、そういう人たちの存在はまったく認知されていなかった。いや、ずっとそうだった。
彼は東京・神保町にある出版社の漫画雑誌編集部で働きはじめる。中高一貫校では漫画研究会に入っていたので、「こんな楽しいことしてお金もらえるなんて。いいの?」と忙しいが充実した日々だった。やがて手作りのブラウスを着て、すとんとしたワイドパンツをはき、同僚の女性たちから「笹子」と呼ばれるようになっていた。パンツがどんどんひらひらになり、スカートのようになり、ついにスカートでも会社に行くようになったある日、総務部長に「男性の服装で出社してください」といわれる。そして半年後にクビになった。
わずかな退職金を懐に小笹は小説を書きはじめる。失業から1年10カ月、ある新人賞を受賞。さらには芥川賞を受賞する。
本書は著者、藤野千夜さんの自伝的小説だ。あるインタビューに答え、「ほぼ実話」だと答えている。LGBTのことからこの稿を書き始めたが、実際は漫画雑誌の編集者たちの熱い思いにあふれた作品だ。有名な漫画家たちの実名がばんばん出てくる。小笹もある日、あの梶原一騎先生から「なあ、大変なことしてくれたなあ」という電話を取り次ぐ。「誤植があったぞ」
時系列ではなく、過去と現在が交差する形で書かれている。小説は主人公が22年ぶりに神保町に立ち入り、カレーを食べる場面から始まる。青春のすべてが詰まった街を再訪するのに、それだけの時間がかかったのだ。何があったのだ。出版業界、漫画業界に関心のある人にぜひ読んでもらいたい。ユニークな編集者たちが本づくりを支えていることが分かるだろう。
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