月刊誌「文藝春秋」に、「文藝春秋読者賞」というのがある。毎年、読者の投票で年間に掲載された記事の中でどれが面白かったかを決める。
2016年の「読者賞」に選ばれたのは、12月号に掲載された橋田壽賀子さんの「私は安楽死で逝きたい」だった。同誌17年2月号で発表された。本書『安楽死で死なせて下さい』は、受賞をきっかけに改めて新書として書き起こしたものだ。
今は元気だが、身の回りのことができなくなって人に迷惑をかける前に死にたい。そう思ったのが、橋田さんが安楽死を考えたきっかけだ。日本では認められていないが、外国に行けば安楽死させてくれるところがあると知った。70万円払えば死なせてくれる。「これはいいな」と思って文藝春秋に寄稿したところ、多くの反響があった。
一人っ子で、夫とは死別して子供はいない。戦中派で、青春はなきに等しかったが、戦後は精一杯生きた。「おしん」「渡る世間は鬼ばかり」など多数のヒットドラマを書き、脚本家として初めて文化功労者にもなった。「夢」だった世界一周旅行にも3回、「やりたいことは全部やった」。
89歳から「終活」に着手した。持っていたハンドバック120個の大半を処分し、蔵書は図書館に寄贈した。親戚づきあいもしてこなかったし、会いたい友人や思いを残す相手もいないという。最後の気がかりが、「私はどうやって死ぬんだろうか」。誰にも迷惑をかけたくないから、死に方と、その時期の選択ぐらい、自分でできないかなと思うようになった。
本書は六章に分かれ、二章まではこれまでに人生の回想。既刊の『渡る老後に鬼はなし』(16年刊、朝日新聞出版)などにも書かれているエピソードが多い。三章の途中から、本題に入る。第四章で、医師、弁護士、心理カウンセラーなど数人のチームで「安楽死」の判断できる新制度の創設をしてほしいと訴え、第五章では「死に方を選べる社会を」と提言している。付録として、文春に寄稿したときに読者からもらった手紙やメールから3通を紹介し、橋田さんが感想を記している。本文の活字は大きく、高齢者向けに配慮されている。
いま92歳。テレビ局からの注文は3年ほど前からパタッとなくなったそうだ。しかし、橋田さんのことだ、原稿用紙に向かって、ひそかに「安楽死」をめぐる大作ドラマに取り組んでいるかもしれない。
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