中学、高校でしっかり英語を学んでも話せるようにならないのは、英語のちゃんとした「話し方」を教えてくれないからなのだ。日本語では家族や友人らを相手にするのと、初対面の人と接するのとでは、話し方が異なるのは当たり前のことで、わたしたちはたいてい、その気配りを自然と行っている。ところが、学校の授業では、英語でも必要とされるはずの気配りに必要なことを教えてくれないので、どういう話し方をすればいいか分からず戸惑ってしまう。
英語には敬語がないなどともいわれるが、学んでいく間に、TPO別などに丁寧な言い方があることが分かってくる。だが、それも漠然としたもので、英語圏とは違う文化圏に生まれ育ったわたしたちの身に染みてくるものではない。本書『英語の気配り』(朝日新聞出版)は、そうした英語の丁寧表現の使い方などを解説するほか、文化や習慣のギャップを埋めるための「スキル」を提供する新タイプの英語読本。サブタイトルは『マネしたい「マナー」と「話し方」』。英語が業務に必須のビジネスマンにも間違いなく役立つ一冊だ。
日本の英語教育をめぐっては近年、実用面での強化が課題だ。小学校での英語の科目化や、大学入試センター試験が「大学入学共通テスト」に替わるのを機に英語の実際的な運用能力を測るTOEICなどの導入が見込まれている。J-CAST BOOKウォッチでは、これまで『史上最悪の英語政策』『検証 迷走する英語入試』『 TOEIC亡国論』などを取り上げ、民間の実用能力テスト依存に対する批判的な意見を紹介してきた。いわば実用英語をテーマにする本書でも、TOEICなどのテストが実際の英語の運用に資するかについては懐疑的だ。
「よく、『英語勉強したのに使えない』という話を聞く。例えば、『TOEICで860点獲ったが、実際の英会話ではまったく使えなかった』という人。『TOEICで990点満点だけど、ハリウッド映画を観ていても、まったく聴き取れない部分がけっこうある』という人。それは、欧米の人たちが当然身に付けている社会共通の常識や概念、もっというとその文化圏特有の『前提条件』のようなものを知らないから起こることも多いでしょう」
さらに「TOEICやTOEFLの点数は参考にはなりますが、それだけで『英語が使える』と即断することはできません」と続け、実用面を養おうとこれらのテストに備える学習にしても、本当に必要な気配りは身につかないと述べる。
英語と日本語の違いについてしばしば、英語では「イエス」「ノー」をはっきさせるように―などとアドバイスされる。それじゃあ、と、もてなしを受けた場でビールを勧められ、アルコールは遠慮しようと「I don't like beer」ときっぱり答えたりする。ところが、こうした言い方は、親しい間柄ならともかく「like」と使うと、ビールは不要という意思は伝えられても「自分の好き嫌いを言っているようでわがままに聞こえる」という。
この場合の「ベター」な応え方は「I'm sorry, but I don't care for beer」(申し訳ありませんが、ビールは苦手です)、あるいは「I'm afraid I can't drink beer」(申し訳ありませんが、ビールが飲めません)など。
ビールを勧められ調子にのり不覚にも酔ってしまったときに、そこが少々改まった場なら「drunk(酔っぱらった、酔った)」は使わない方が良い。日本語では「ちょっと酔ってしまったようで...」などというが、英語で「drunk」というと「かなり酔った状態に聞こえる。ストレートすぎて相手を勘違いさせてしまう可能性がある」という。より良い表現は「I think I may have had a little too much to drink」(ちょっと飲み過ぎたかもしれない)。
「may+現在完了形」は「過去の推量」を表す用法で、仮定法過去完了との関連あるいは区別について学習者がしばしば混乱する項目の一つだ。こうした表現を身に付けるには、文法をおろそかにはできない。
はっきり答えなければならないと信じて、日本人は英語となると「Of course」(もちろん)を多用しがちという。だが、日本語の「もちろん」とぴったり重なる意味ではないので注意が必要という。「その仕事を終わった?」と聞かれて「Of course」と答えると「終わってないわけないでしょ」のようなニュアンスがあり、傲慢な感じがするという。また「駅までは歩ける距離ですか」などと問われ「Of course」と応じれば「当たり前でしょ。そんなことも知らないの?」のような響きにも聞こえる可能性がある。
本書が「誤解される日本人の英語」としてほかに挙げるのが「We Japanese...(私たち日本人...)」という言い方。相手には「(あなたたちと違って)私たち日本人は...」と、相手を「よそ者」であると宣言しているように聞こえるという。逆に「You Americans(あなたがた米国人...)」も、差別をしているように聞こえる可能性があるので避けた方がいいと提案している。
著者のマヤ・バーダマンさんは仙台市生まれで、小学校~高校はインターナショナルスクールに通学。上智大学比較文学部に進み在学中にハワイ大学に留学。大学卒業後は、米投資銀行ゴールドマン・サックスなどに勤務し、現在は別の外資系企業に勤務している。日本生まれながら、父が米国人であり、留学経験もあるので就職の際にも英語力には問題がないと思っていたという。
ところが就職したゴールドマンで耳にした英語は、それまで使っていたものとは違っていて、自分の英語力についての自信が間違ったものであることに気付いたという。そうした経験から得た英語経験をまとめたものが本書。まさに生きた英語を学べる一冊といえる。
幼いころからのバイリンガル生活にもかかわらず、社会に出てから接した別の英語に戸惑ったという著者だが、有名マナー講師による言葉づかい指導に違和感を覚えたことも吐露している。
米国でマナーについてカリスマ講師とされるドロシア・ジョンソンさんが、孫の米女優、リブ・タイラーさんと5年前に刊行した「Modern Manners: Tools to Take You to the Top」(邦題「世界標準のビジネスマナー」=東洋経済新報社)。著者はこのなかの「"Thank you"に対する返答として"Not at allや"No problem"といったネガティブな単語を含む表現は使うべきではない」というか所に首をかしげたという。
「上流社会」でネガティブな響きを持つ単語を使うことが避けられている可能性はなきにしもあらずのようだが、著者は「私たちの市井の会話では、高い頻度で"Not at allや"No problem"が使われている」ときっぱり。「手放しで褒められるような丁寧な英語ではないが、これはこれで親しみのある表現に成り得ている」と述べる。
本書は、英語文化圏の外で生まれ育った日本人に、英語を学ぶための、もう一つの手がかりを示してくれる一冊でもある。
パソコン用に音声ファイルの無料ダウンロード、スマートフォン用に無料音声アプリが用意されており、立体的な学習ができる仕様になっている。
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