アイドルや俳優、アニメ、スポーツなどどんな分野でも、「推し」がいる人ならこんな状況におちいったことがあるのでは。『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)!
推しのことをSNSに書きたいのに、「やばい」「待って」「ムリ」「最高」しか言えない......本書はそんな人の語彙力を復活させて、推しを語るコツをレクチャーする一冊だ。著者は書評家で、宝塚と女性アイドルが大好きだという三宅香帆さん。読者と同じ「オタク目線」で、文章術はもちろん、「好き」を発信することの素晴らしさも教えてくれる。
ちなみに、記者はある男性アイドルを推しているのだが、SNSを見返すと「良すぎる」を連発しがち。こんなふうに語彙力を失ってしまうのは、そもそもなぜなのだろうか?
本書によると、その理由の一つは「他人の言葉に影響を受けてしまう」ことだそう。SNSで他人の感想を読んだり、「やばい」「最高」などのありきたりな言葉を使ったりしているうちに、自分自身がどう感じたのかを見失ってしまうのだ。だから、三宅さんはこう言っている。
「自分の『好き』を言語化するうえで、一番重要なことを伝えましょう。
ずばり、『他人の感想を見ないこと』です。」
他人の言葉をシャットアウトすることで、自分の言葉が見つかる。三宅さんは、必ず自分の感想を書き終えてから他人の感想を見ると決めているそうだ。
では、自分の感想を言語化するコツは何だろうか。その一つが「細分化」だ。どこを好きだと思ったのか、具体例を細かく挙げると書きやすくなるという。しかも、その例は細かければ細かいほどいいそうだ。
「それは、感想のオリジナリティは細かさに宿るからです。」
この曲のここの歌い方が好き、このインタビューのこの言葉が好き......というように、細かい一点に注目すると、視点にオリジナリティが生まれる。どう思ったかを言語化しようとする前に、自分が「どこ」に注目したのかをまず考えてみてはいかがだろうか。
ではさっそく、記者も推しのことを言葉にしてみようと思う。本書で、三宅さんが「『推しのことなんて、もう好きじゃないかも~と思ってたけど、やっぱり好きだと確信した』タイミングの話を聞くのがけっこう好き」と書いているのだが、ちょうど最近これに当てはまる出来事があった。しばしお付き合いいただいて、具体的なエピソードを書いてみよう。
先日、推しが、あるイベントに一人で出席した。推しのグループの他のメンバーがイベントに出る時は、いつもと雰囲気が違って思わず目を奪われることが多かったので、推しもそうなるのかな......と期待していた。ところが、当日投稿された写真や映像にはそこまで「うわ! すごい!」とはならなかった。一瞬、「そんなに好きじゃないってこと?」と気持ちが揺らぎかけた。
でも、いつもと変わらない推しの姿を見ているうち、彼のどんなところが好きだったのかを思い出した。どこにいても何があっても、自分を見失わず、自然体でいられる強さとしなやかさ。変わらない人だからこそ、見ていて安心するのだ。それに気づいた時、「やっぱり好きだ......」と頭を抱えていた。
いざ書いてみると気恥ずかしいが、「やばい」や「かっこいい」だけには収まらない推しの魅力が少しでも伝わっただろうか。
本書では、推しについて他人に直接話す場合・SNSで発信する場合・ブログなど長い文章に書く場合のコツを紹介している。今よりもいい投稿ができるようになりたい人にも、発信したことがなかったけれどチャレンジしてみたい人にもおすすめの一冊だ。次はあなたの「好き」を聞かせてほしい。
【目次】
はじめに
第1章 推しを語ることは、自分の人生を語ること
第2章 推しを語る前の準備
第3章 推しの素晴らしさをしゃべる
第4章 推しの素晴らしさをSNSで発信する
第5章 推しの素晴らしさを文章に書く
第6章 推しの素晴らしさを書いた例文を読む
おまけ 推しの素晴らしさを語るためのQ&A
おわりに
■三宅香帆さんプロフィール
みやけ・かほ/書評家、作家、京都市立芸術大学非常勤講師。1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院卒。著書に『人生を狂わす名著50』(ライツ社)『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(笠間書院)他多数。編著に『私たちの金曜日』がある。
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