嫌い箸、守り本尊、臥薪嘗胆、進取の気性......なかなか日常会話で使うことはないこれらの日本語。正確に意味を答えられるものはどれくらいあるだろうか。
『あいさつ・しきたり・四季・ことわざ 味わい、愉しむ きほんの日本語』(実務教育出版)は、明治大学文学部教授・齋藤孝さんによる、日本語の豊かな世界へのガイド本と言える。いわば、「齋藤孝版・日本の歳時記」。挨拶やしきたり、ことわざ、四季を表す言葉など、日本で育まれた趣深い言葉の数々を、独自の視点で解説している。
今回は本書の第2章「ことわざ」から抜粋し、日本で生活する大人ならぜひとも知っておきたい、美しい日本語のことわざに実際に触れてみよう。
「忙中閑(ぼうちゅうかん)あり」
意味:忙しいなかにも、わずかな暇はあるものだ。
(本文引用)
1つめは、常に時間に追われがちな現代人が胸に留めておきたいことわざ。著者の齋藤さんが勤務する大学では、忙しい人ほど用事を頼むとすぐにやってくれるのだという。
「忙しい人ほど時間の使い方が上手なものです」
(本文引用)
齋藤さん自身も、移動途中で20分ほど待ち時間ができると、安いカフェに入り新書など軽く読み終えられる本を読む。3時間ほど空いているときは、すぐに映画館に向かって話題作を観るそうだ。多くの作品に触れることで、今を生きている感覚が磨かれ、新たな情報発信につながるのだとか。
忙しい中にも別の時間を作り、心に余裕を持つ。せわしない時こそ、「忙中閑あり」と唱えてみよう。
「人には添うてみよ 馬には乗ってみよ」
意味:馬の良否は乗ってみなければわからないように、人の本質も親しく交わってみなければわからない。何ごとも実際に試してみよ、ということ。
(本文引用)
2つめのことわざ「人には添うてみよ 馬には乗ってみよ」は、齋藤さん自身が心に刻んでいることわざの1つだという。テレビを観ているとき「こんなに押しが強い人とは話しにくいな」「協調性がなさそうな人だな」など、苦手意識を持つ人がときどきいるのだとか。そのような人と対談する機会があると気が重くなるのだという。
けれど、実際に会ってみると、ほとんどの人はもう一度会いたいと思えるような素晴らしい人ばかりだそう。つまり、実際に会ってみなければ、その人の本質はわからない。
「もし会ってみて、やっぱり苦手だなと感じたときには、距離をとればよいでしょう」
(本文引用)
先入観に縛られず、判断はまず試してみてからで良い。そのような姿勢が、今までになかった出会いをもたらしてくれるかもしれない。
「言葉は心の使い」
意味:心に思っていることは、自然と言葉に現れる、ということ。
(本文引用)
最後は、本音は自然に口をついて出てしまうことを表したことわざ。もちろん、思ったことを全て口にしてしまうわけにはいかない。本書では、日常会話の他にメールやSNSへ投稿するときも、このことわざを意識することを勧めている。
心の中で思っていることをそのまま書くのではなく、ひと呼吸おいて「これで大丈夫かな」と確認してから、メールや投稿をするべきだという。特に現代は、そんなつもりなく投稿したことが思わぬ反応を集めてしまうことも多い。
「言葉は心の使い」を思い出し、本音をそのまま言葉にして問題ないか確認する癖をつけると良いのではないだろうか。
これらのことわざをはじめとして、本書では人生、人間性、社会生活、日常、自然・文化の5つのカテゴリに分け、ぜひとも知っておきたいことわざを、身近な例とともに解説している。
本書を通して日本語をゆったり味わい愉しめば、豊かな語彙を活かした、一味違う大人の会話ができそうだ。
【目次】
第1章 日本人の心づかい
・パート1 人づきあい
おはようございます/おかげさま/一期一会/お裾分け ほか
・パート2 「ハレ」の日
門松・鏡餅/初詣/お彼岸/五節句/お食い初め/還暦 ほか
・パート3 身につけたい心がけ
ごちそうさま/嫌い箸/上座・下座/敬語 ほか
・パート4 神仏と日本の暮らし
守り本尊/縁日/大安・仏滅/鬼門/縁起物 ほか
第2章 ことわざ
・人生
柳に雪折れ無し/諸行無常/六十にして耳従う ほか
・人間性
成らぬ堪忍するが堪忍/天を怨みず人を尤めず/臥薪嘗胆 ほか
・社会生活
頭剃るより心を剃れ/転がる石には苔が生えぬ/袖振り合うも多生の縁 ほか
・日常
敵の家でも口を濡らせ/秘すれば花 秘せずば花なるべからず ほか
・自然・文化
一葉落ちて天下の秋を知る/教うるは学ぶの半ば/言葉は心の使い ほか
第3章 日本の四季
立春/雨水/啓蟄/春分/清明/穀雨 ほか
第4章 生き方
寛容/礼儀/作法/孝行/もったいない/進取の気性 ほか
■齋藤孝さんプロフィール
さいとう・たかし/1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー著作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞)、『雑談力が上がる話し方』『1冊読み切る読書術』(ダイヤモンド社)、『大人の語彙力ノート』(SBクリエイティブ)など多数。
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