2023年4月3日、『明解国語辞典』から削除された単語を集めた辞典『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』(三省堂)が発売された。
現代語に密着し、改訂のたびに、たくさんの新語を取り入れる代わりに、現代では使われなくなった言葉を退場させる方針を取っていることで知られる『三省堂国語辞典』。本書は、そうして削除されてしまった「消えたことば(項目)」を発掘し、愛おしむ異色の辞典だ。
紙面では、前身となる1943(昭和18)年発刊の『明解国語辞典』以降、2022(令和4)年刊『三省堂国語辞典 第八版』まで、約80年にわたる計9回の改訂で削除された項目から1,000項目を厳選し、当時の紙面をそのまま拡大して五十音順に配列。各項目には脚注を付し、削除した版数・年次を明示している。
耳馴染みのない言葉の理解を助ける、描き下ろしの挿絵50点も挿入。さらに巻末では1,000項目、計2,000の削除語を古い版数順に一挙掲載している。
編集をつとめるのは、三省堂編修所と校閲者の見坊行徳(けんぼう・ゆきのり)さん。見坊さんは、「早稲田大学辞書研究会」の創設者であり、YouTube「辞書部屋チャンネル」を運営する重度の「辞書マニア」。さらに『三省堂国語辞典』の初代編集主幹である見坊豪紀(ひでとし)の孫であるという縁もあり、三省堂から白羽の矢が立ったという。
見坊さんは、祖父が編集した『明解国語辞典』初版から『三省堂国語辞典』第四版の間に消された言葉を担当。それ以後の部分は三省堂編修所が担当した。
収録された言葉のなかでも、「オート三輪(車)」「キーパンチャー」「バスガアル」「メーンエベント」など15項目には、時代背景や関連語の盛衰が特記されている。たとえば、「コギャル」の説明は以下の通り。
こギャル[コギャル](名)〔俗〕
顔を黒く焼いたりする、ファッションがはでな女子高校生など。
〔一九九〇年代からの言い方。もと、大人の女性のまねをして遊ぶ女子高校生をさした〕
1990年代に世を席捲した「コギャル」は、2001年の改訂で「流行のファッションやことばづかいをする女子高校生など」として採録されたが、時代の変化を受け、2022年の改訂で削除されて話題を呼んだ。
また、同時期に流行していた女子中学生の「マゴギャル」、顔を黒くした「ガングロ」、そして髪を銀色などにした「ヤマンバ」などは掲載に至らなかった。ちなみに、2022年の改訂では、「ルーズソックス」の項目に〔一九九〇年代に流行〕という注記が加わった......などなど、その単語に関連するさまざまな豆知識を得ることができる。
【収録項目の例】
明解国語辞典改訂版【1952(昭和27)年】削除:國民學校/召集令狀/無聲映畫/ルナパアク ...
三省堂国語辞典初版【1960(昭和35)年】削除:家族合わせ/三S時代/のんとお/バスガアル ...
三省堂国語辞典第二版【1974(昭和49)年】削除:海ほおずき/エアシュート/省線/DDT/ミルクホール ...
三省堂国語辞典第三版【1982(昭和57)年】削除:どか貧/熱蔵庫/すがすが/BG/フルファッション ...
三省堂国語辞典第四版【1992(平成4)年】削除:オート三輪/ソノシート/メーンエベント/ラテカセ ...
三省堂国語辞典第五版【2001(平成13)年】削除:赤電話/聖徳太子/炭住/ちょうだいな/割興 ...
三省堂国語辞典第六版【2008(平成20)年】削除:仮名タイプ/還元乳/頑張りスト/ながら族/労戦 ...
三省堂国語辞典第七版【2014(平成26)年】削除:iモード/だら幹/縦飯/根明/ヘルスセンター ...
三省堂国語辞典第八版【2022(令和4)年】削除:MD/企業戦士/コギャル/トラバーユ/てく ...
本書の出版を記念したLINEスタンプも近日中に配信開始される。SNSでの使い勝手を考慮した、現代にも通ずるであろう「消えたことば」40語をセレクト。スマートフォンで、不思議なタイムスリップ気分を味わうことができる。
■見坊行徳さんプロフィール
けんぼう・ゆきのり/辞書マニア、校閲者。1985年神奈川県生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。在学中に「早稲田大学辞書研究会」を結成し、副幹として『早稲田大辞書』を編纂。YouTube「辞書部屋チャンネル」で辞書の面白さを発信する。イベント「国語辞典ナイト」のレギュラーメンバー。辞書マニアが共同で辞書を保管して集まる「辞書部屋」主宰。『三省堂国語辞典』の初代編集主幹、見坊豪紀の孫。共著に『辞典語辞典』(誠文堂新光社)。
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