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「〇〇くない」が日常の話しことばを大きく変える可能性も。三省堂辞書のプロが選んだ「今年の新語」2022

Mori

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三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」

「だれでもできるくない?」
「もう勝ったくないですか?」

 

 「〇〇じゃない(ですか)?」と相手に同意を求めるとき、最近では「く」を使うらしい。大人世代の中には若干イラッとする方もいるかもしれないが、「〇〇くない」という「く」の使い方は、すでに市民権を得つつある。なんと、辞書に載るかもしれないのだ。

 11月30日、『三省堂国語辞典』をはじめ、『大辞林』や『新明解国語辞典』など、辞書のトップメーカーとして知られる三省堂が、2022年を代表・象徴する新語ベスト10を発表した。

 一般公募を行い、応募総数延べ1041通(異なり673語)の中から、辞書を編む専門家が厳正に審査して選んだ10語がこちら。

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時代の価値観を表すワードが大賞に

 大賞に選ばれた「タイパ」とは、「かけた時間に対しての効果や満足度」「時間的な効率」などの意味で使われる。かけたコストに対していう「コストパフォーマンス(コスパ)」をもじった「タイムパフォーマンス」の略で、数年前から見られるようになった語だが、特に今年になってから用例が多く見られるようになったという。映画や動画の「倍速視聴」や「ファスト動画」などに現れた時代の価値観を表していることが、選考の理由だ。

 選評では「タイムパフォーマンス」は和製英語と考えられ、カタカナで言わなくても「能率」と言えば「ほぼ同じ意味が伝えられる」とある。一方で、「新しい時代状況を表すためには、新しいニュアンスのことばが必要なのも確か」として、選考会の意見が一致したという。

 「タイパ」を含め、ベスト10に入ったことばには、プロの手による解説(語釈)がつけられた。大真面目でくすっと笑ってしまう用例にご注目!

【大賞】タイパ

タイ パ〈名〉[←タイムパフォーマンス]あることにかけた時間から得られる見返りや利益。時間効率。時間対効果。「倍速視聴(=動画やテレビ番組などを、倍の速さで視聴すること)で―を上げる・―がいい」[「タイパして」「タイパな」のような、動詞・形容動詞的な用法もわずかに見られる]《由来》費用対効果を意味する略語「コスパ(=コストパフォーマンス)」にならってつくられた語。なるべく時間を掛けずに、なるべく多くの見返りを得たいという現代的な発想が根底にある。
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

タイ パ 〔←タイムパフォーマンス(和製time performance)〕〔俗〕時間的な効率。能率。「―重視で動画を早送りする・―向上」〔「コスパ」にならったことばで、二〇二〇年代になって広まった〕
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

タイ パ [0] 〔←タイムパフォーマンス[5] 〕かけた時間に対しての効果(満足度)。タムパとも。「―を求める(重視する)/―が悪い」
『新明解国語辞典』編集部

タイ パ [0] 〔タイム-パフォーマンスの略〕費やした時間に対して得られる成果・満足度の割合。時間対効果。「映画を通してみるのは―が悪い」〔録画したドラマや映画を倍速で視聴する、粗筋だけ分かるように編集されたファスト映画を見る、音楽のさびのみを聴くなどの行動に見られる、できるだけ時間を掛けずに効率よく成果を得ようとする風潮の中で多く使われる〕
『大辞林』編集部
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【2位】○○構文

こうぶん【構文】〈名〉①文や句として成りたつように、単語などの要素を、文法的な決まりにしたがって、並べたもの。「―として成立させる・分詞―」②文章のひとまとまりを、ある方式によって作り上げたもの。「おじさん―・ご不快―」[用法] 「おじさん―」とは、おじさんのメールなどにありがちな、多くの絵文字や、親しげな言いまわしをちりばめた、長ったらしいものを話題にするときに使う。「ご不快―」とは、相手が不快になったこと自体を謝罪するだけで、その原因となった自分のがわの非については何も述べない文章について言う。
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

【3位】きまず

き まず[(気まず)]-まづ ⦅感⦆ 〔←「気まずい」の語幹〕〔俗〕とまどうなあ。「『ライブ会場で会おうね』『―』」〔二〇二〇年代になって注目されたことば。それほど気まずくない場合にも使う〕
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

【4位】メタバース

メタバース [3] 〖metaverse〗ネットワーク上に構築される、三次元グラフィックの仮想空間。利用者はアバターを操作し、仮想空間に参加する。
『大辞林』編集部

【5位】○○くない

く ない ⦅終助⦆ 〔←形容詞連用形をつくる接尾語「く」+形容詞「ない」〕〔俗〕同意を求める気持ちをあらわすことば。でしょう。くないか。くね。「だれでもできる―?・もう勝った―?」[丁寧]くないですか。〔二十一世紀のゼロ年代に報告があり、二〇一〇年代に広まったことば。二〇年代には「ありそうく見える」「できるくなった」など、「く」に肯定表現が続く形も注目されるようになった〕
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

【6位】ガクチカ

がくちか【ガクチカ】〈名〉学生時代に、学業、サークル活動、アルバイトなどで、(とくに)力を入れたこと。多く、就職のための、面接の場面や、エントリーシート(=学生が雇用主がわに提出する身上書)で話題になる。《由来》「学生時代に力を入れたこと」の「学」と「力」の先頭二字を組み合わせて「ガクチカ」と略したもの。ひらがなや漢字では書きあらわされない。文や句がもとになったものとしては、ほかに、「鴨がネギを背負ってきた」→「カモネギ」、「あけましておめでとう」→「あけおめ」などがある。
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生

【7位】一生

いっ しょう[一生] [一] 生まれてから死ぬまでの間。生涯。「幸福な―・―のお願い〔=一生で一番大切なお願い。大げさに言うことも多い〕・〔副詞的に〕―忘れない・そんなにテレビが好きなら、―見ていなさい」[二] ⦅副⦆〔俗〕ずっと。「きょうはねむくて―ねてた」〔二〇二〇年代に広まった用法。現在や過去のことにも使えるところが[一]とちがう〕
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生

【8位】酷暑日

こくしょ び [3] 【酷暑日】一日の最高気温がセ氏四〇度を超える日の称。〔日本気象協会の用語〕
『新明解国語辞典』編集部

【9位】闇落ち

やみ おち [0] 【闇落(ち)・闇《堕(ち)】―する(自サ)〔今まで道徳的品性を保っていた人が〕社会通念から外れる(外れた行いをするようになる)こと。「彼は陰謀論を信じ込み、―してしまった」[表記]「闇《墜(ち)」とも書く。
『新明解国語辞典』編集部

【10位】リスキリング
リスキリング [3][0] 〖reskilling〗社会人が、ある職業に必要とされる技能の習得をあらためて行うこと。特に近年、別の職種に就く場合や同じ職種でもあらたな技能が必要とされる場合に、それらの技能を習得することを指していう語。
『大辞林』編集部

辞書に載ってもおかしくない新語をバランスよく

 冒頭の「〇〇くない」は5位。選評には「日常の話しことばを大きく変える可能性のあることばです。」とある。実は2000年代から関西や福岡市などで若い人が「できるくない?」「行ったくない?」などと話していることが報告されていたという。2010年代には「く」の使いかたが全国の幅広い層に浸透し、2022年の今ではさらに用法が発展している状況を踏まえて選ばれた。

 なお、三省堂が募集する「今年の新語」はあくまで「今年とくに広まったと感じられる新語」であり、必ずしも「今年生まれた言葉」ではない点が、新語・流行語ランキングとの違いだという。

 その中から、特定のジャンルやコミュニティーに偏らないよう、使用者層や使用域の広がりと使用頻度の高さを考慮しつつ、来年以降も使われてゆくであろう日本語を、辞書を編むエキスパートが慎重に選定しました。つまり、辞書に載ってもおかしくない新語をバランスよく認定するのが「今年の新語」です。

 「はあ、こんな妙なことばが辞書に載るとは...」と嘆息したあなた。確かに大人世代が使うのは心理的なハードルが高い。しかし、ことばは時代に応じて変わっていくもの。下手に使えば「誤用」と笑われるかも...などと恐れなくても大丈夫。だれだって、使えるくない?


※画像提供:三省堂




 


  • 書名 三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2022」
  • 出版社名三省堂

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