(イベント名)三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語 2023」
ハルシネーション、トーンポリシング、アクスタ、〇〇ウォッシュ......。カタカナ言葉が目立つ「今年の新語」。あなたは意味を説明できるだろうか?
2023年11月30日、辞書の三省堂が選ぶ「今年の新語 2023」が発表された。応募総数2,207通、異なり1,087語(重複するものを省いて数えた語の数。表現が辞書っぽい!)の中から選ばれたのは、次の10語だ。
30日夜、東京・渋谷で行われた選考発表会には、辞書やことばに関心の高い人々が集まり、会場は熱気に包まれた。
「ハードな言葉」が目立った今年の新語。大賞の「地球沸騰化」は、今年7月に全世界の平均気温が観測史上もっとも高温になるという予測から、アントニオ・グテーレス国連事務総長が発した言葉。英語のglobal boilingの訳語だ。
登壇した『三省堂国語辞典』の編集委員、飯間浩明さんは、「ハードさにおいてこれを超えるものがない」と評価。「これまで『地球温暖化』という言葉で表現してきましたよね。温暖っていうと穏やかに聞こえるけど、実はそうじゃないんだってことをグテーレス事務総長が述べたんです」と補足した。これに対し、『三省堂現代新国語辞典』の編集委員、小野正弘さんは、「言葉としては滑稽なんですよね。地球が沸騰するなんて、ゆで卵かよって思うんだけど、それが冗談ではなくなっているというところが怖い」とコメント。『大辞林』編集長の山本康一さんは、「茹でガエルって言葉がありますよね。水だと思って安心して浸かっていたら、気づかぬうちに温度が上がって、茹でられて死んじゃうっていう」と恐ろしいたとえを持ち出した。
大賞には、4つの辞書の編集部がそれぞれ語釈をつけている。辞書によって特色があるが、いずれも「深刻」「看過できない」「人類未曽有の危機」など、このままでは破滅に至るという強い危機感を表現している。
ちきゅうふっとうか【地球沸騰化】〈名〉世界の気温が、深刻なほど急激に上昇していること。「━の時代・━を問題視する」《由来》global boilingの訳。二〇二三年七月の平均気温が観測史上最も高くなるという予想に基づいて、当時の国連事務総長が出したコメントから。従来の「地球温暖化」という用語では済まないという認識と危機感を表したもの。
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
ちきゅう ふっとうか[地球沸騰化]地球温暖化が深刻になった段階を表現した ことば。[由来]二〇二三年のグテーレス国連事務総長の発言から。
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
ちきゅう ふっとう(ォ)か [0]-[0] -キウ-クワ【地球沸騰化】〔global boiling の訳語〕化石燃料の使用などがもたらす温室効果による地球全体の気温上昇と、それに起因するさまざまな災害の原因としての「地球温暖化」の歯止めのない進行と、それがもたらす破滅への恐れをさらに強調して言う語。産業革命以来の工業化によって得た文明の利便性と引き替えにもたらされた人類未曽有の危機に対し、原因となる温室効果ガス排出の一層の削減を求めるべく、二〇二三年七月に国際連合の事務総長が発した。
『新明解国語辞典』編集部
ちきゅう ふっとうか ちきうふつとうくわ [0] 【地球沸騰化】〔global boiling〕地球温暖化による気候変動が看過できないレベルにあるとして、より深刻で容赦ない段階であることを示す語。二〇二三年七月の全世界の平均気温が観測史上最も高温になるという予測に対して、国際連合のアントニオ=グテーレス事務総長がよりいっそうの対策を促すために使用。
『大辞林』編集部
そのほか10位内にランクインした言葉の意味は、以下の通り。
【2位】ハルシネーション
ハルシネーション〈名〉[←hallucination]人工知能(AI)が、事実とは異なる情報を生み出してしまうこと。「━を警戒する」《由来》もとは「幻覚」の意。その情報の文体そのものは、もっともらしいので、注意を要する。
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
【3位】かわちい
かわち・い かはちい⦅形⦆〔俗〕かわいい。「―デザイン・こんな自分が―」〔二〇二〇年代初めに特に広まった ことば〕
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
【4位】性加害・性被害
せい かがい[性加害]性暴力など、性的な害をあたえること。「―をおこなう・―を受ける」(↔性被害(ひがい))
せい ひがい[性被害]性暴力など、性的な害を受けること。「―に遭(あ)う・―を受ける」(↔性加害)
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
【5位】○○ウォッシュ
ウォッシュ(造語)〔wash〕世間に知られては都合が悪いことや不正を糊塗し覆い隠す意図をもって、自らの善行を吹聴し、言い立てること。ウォッシングとも。「グリーン―[5]〔= 環境や健康に対して実際には効果がないにもかかわらず、いかにも環境に配慮し、効果があるかのように見せかけること〕・ホワイト―[5]〔= 汚れを覆い隠すために表面を白く塗りつぶすことから、うわべをつくろい、ごまかすこと〕」
『新明解国語辞典』編集部
【6位】アクスタ
アクスタ [0] 〔アクリル-スタンドの略〕アクリル樹脂製の板に、アニメ・ゲーム・漫画等のキャラクターや人物写真などを印刷したもの。台座に立てて鑑賞したり、写真を撮ったりして楽しむ。
『大辞林』編集部
【7位】トーンポリシング
トーンポリシング〈名〉[←tone policing]議論の中身ではなく、その口調や態度などを問題として指摘し、話を本題からそらすこと。「悪賢い━にひっかかる」《由来》toneは「口調、音調」、policingは「警察による警備や規制」の意。
『三省堂現代新国語辞典』小野正弘先生
【8位】リポスト
リポスト⦅名・他サ⦆〔repost=再投稿(とうこう)〕〘情〙〔SNSで〕ほかの人の投稿を、改めて自分のアカウントで紹介(しょうかい )すること。「気に入った絵を―する」
『三省堂国語辞典』飯間浩明先生
【9位】人道回廊
じんどう かいろう じんだうくわいらう[5]【人道回廊】〔humanitarian corridor〕武力紛争の際、民間人の避難や人道支援物資の輸送などのために一時的に設ける、戦闘を停止し安全を保証する経路。当事者間の協議や、国際社会の要求によって設ける。
『大辞林』編集部
【10位】闇バイト
やみ バイト[3] 【闇バイト】(主としてSNSなどインターネット上で)アルバイトとして募集した者を脅してやめられなくしたうえで、特殊詐欺や強盗などの実行役をさせる犯罪行為。反社会的集団が、自ら手を汚すことなく犯罪を行なうきわめて卑劣な行為。
『新明解国語辞典』編集部
6位の「アクスタ」の解説では、『現代新国語辞典』の小野さんが「推し」だというバンドGARNET CROWのアクスタを披露し、「今までこれがアクスタだっていう自覚がなかったんですけど、そういえば持ってるじゃんって思って持ってきたの」とお茶目な一面をのぞかせる場面も。
記者が個人的に気になったのは、「ハルシネーション」「〇〇ウォッシュ」「トーンポリシング」の3つだ。関連性はないが、もっともらしさやごまかし、巧妙で悪賢いさまを表す点が共通している。情報の真偽を見定めることが、いっそう難しくなっている状況に、受け取る側も不安や危機感を感じていることがうかがえる。飯間さんは、「もっともらしいけど、本当かな?という気持ちを持ってほしい」と注意を呼び掛けた。
「今年の新語」が、いわゆる「流行語大賞」と異なるのは、「今年生まれた言葉」ではなく、「今年とくに広まったと感じられる新語」で「今後の辞書に採録されてもおかしくないもの」を選出する点だ。この先も日本語として定着し、長く使われる可能性がある。
このことは、投稿最多の「蛙化(かえるか)現象」や、2位の「アレ」がランクインしていないことからも分かる。いずれも今年「たしかによく聞いた」言葉ではあるが、人によって意味の解釈が分かれたり、すでに辞書に掲載されていたりするという理由で、選考から外れた。
ベスト10の多くを時事関連の言葉が占めたことについて、「本当はもうちょっと国語的な言葉を(選出)したかったっていうのはありますけど、やっぱり地球沸騰化にせざるを得ない」と『大辞林』の山本さんが言うと、「来年になったら忘れられるということであってはならない、今年を境にこの世界は違ってしまったんだ。そういう思いを込めて、ベスト10を選びました」と『三省堂国語辞典』の飯間さん。イベントの最後は、「来年は、もっと明るく笑えるような言葉が並ぶといいと思います」という山本さんの言葉で締めくくった。
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