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東大生を圧倒! 難解すぎて伝説になった東大総長の式辞とは?

東京大学の式辞

「名式辞」をめぐる伝説に、ツッコミどころ満載の失言。
 東大の卒業式で語られた、あの「名言」の真実とは? 

 2023年3月17日、元東大副学長・石井洋二郎さんの新著『東京大学の式辞 歴代総長の贈る言葉』(新潮社)が発売された。

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 近年、東京大学の式辞はひと際注目を浴びている。2015年に石井さんが教養学部の学位伝達式で読んだ式辞では、大河内一男元総長の名言とされる「肥った豚よりも瘦せたソクラテス」にまつわる3つの誤りを指摘し、情報社会における一次資料の重要性を説いた。この式辞はネットを通じて瞬く間に拡散され、大きな話題になった。

 元来、入学式・卒業式という「閉ざされた場所」のものである式辞へここまで大きな反響があったことに、石井さん自身非常に驚いたという。この式辞は様々なメディアで取り上げられ、8年経った現在でも卒業式シーズンにはネット記事が出回っている。

 本書では、明治・大正から現代に至るまでの式辞を、日本近現代史の歩みと重ね合わせながら読み解いていく。大震災、戦争、大学紛争、国際化――歴代の総長たちは時代の荒波の中で、何を語り、そして何を語らなかったのか。知られざる名演説はもちろん、ツッコミどころ満載の失言まで、時代を超えてなお生き続ける「言葉」の重みを実感させられる内容となっている。

『ドライブ・マイ・カー』監督も眠りこけた伝説のスピーチ

 東大の式辞については、有名な逸話が多い。特に有名なところでは、石井さん自身が引用した大河内一男総長の名言「肥った豚よりも瘦せたソクラテス」、2019年の上野千鶴子さんの祝辞、昨年の河瀨直美さんの祝辞などは覚えている人も多いはず。

 中でも伝説となっているのが、1999年の入学式で読まれた、映画評論家としても有名な蓮實重彦総長のスピーチだ。

 20年後、2019年の入学式で読まれた教養学部長式辞では「内容が難解だったことに加え、47分間もあった」「式辞の途中で気分が悪くなって医務室に運ばれる学生が何人も出たそうです」と言及されている。式辞を実際に聞いたある学生は、「全く理解不能な難しい話でした。大学とは凄いものだと思い知りました。」との印象を持ったという。

 当時の新入生には、『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督もいた。濱口さんは「今考えるとものすごく恥ずかしいんですけど、僕は"蓮實重彦"というお名前も知らない状態で、あのものすごく長い式辞を聞いて眠りこけるというような(笑)」と当時を振り返っている(東京大学文学部卒業生インタビュー)。

 東大生がここまで圧倒されるとは、いったいどんな内容だったのか――?

【目次】

はじめに

第1章 富強の思想、愛国の言葉(1877‐1938)
明治維新後、ほどなく創設された東京大学。国力を高め、欧米列強に伍するために学問が果たすべき使命とは――日清・日露をはじめ「戦争の時代」を目前に語られたこと。

第2章 戦争の荒波に揉まれて(1938‐1945)
一身を君国に捧ぐるの覚悟を――皇国史観に揺れる学問の府と、命を散らす学徒。日中戦争勃発から太平洋戦争、そして敗戦まで。色濃く映し出された、あの時代の空気とは。

第3章 国家主義から民主主義へ(1945‐1951)
新憲法がもたらした戦後民主主義。女子学生の入学、新制大学への移行など大学のあり方が一新される一方で、講和をめぐり南原総長の理想と政治権力という現実が衝突する。

第4章 平和と自由のために尽くす人となれ(1951‐1957)
講和によって日本は自主独立を取り戻し、大学は「国策大学」から「国立大学」へと姿をあらためる。平和主義、学問の自由、そして大学の自治を問い直す矢内原総長の信念。

第5章 肥った豚よりも痩せたソクラテス?(1957‐1968)
東大籠城事件やデモ隊の国会突入など六〇年安保闘争の騒乱の中、大学教育の真価が問われる。長く語り伝えられてきた大河内総長の「名式辞」の真実とは。

第6章 ノブレス・オブリージュ、国際人、多様性(1969‐1985)
「高き身分の者に伴う義務」を負い、「よくできる人」より「よくできた人」に――学生紛争が終わり、大学自体が大衆化していく転換期、求められる人材像にも変化が起きる。

第7章 あらゆる学問分野の連携を(1985‐1993)
バブルの狂躁、冷戦終結など国内外とも情勢は大きく変わる。気候変動をはじめ人類規模の問題と学問はどう向き合うか。突っ込みどころ満載の言葉から次代への正論まで。

第8章 未来へ伝達すべきもの(1993‐2001)
東大の式辞は、矛盾と葛藤に満ちた日本の近現代史と見事に重なりあう。阪神・淡路大震災を経て、二十世紀の終わりに二人の総長が贈った未来への「祝福」とは――。

補 章 いま君たちはどう生きるか(来賓の祝辞から)
独創力、人間力、想像力、ノブレス......安藤忠雄、ロバート・キャンベル、上野千鶴子ら近年話題になった三氏の祝辞が示した、若者たちへの熱いメッセージ。

おわりに
主要参考文献
脚注
東京大学の式辞関連年表

■石井洋二郎さんプロフィール
いしい・ようじろう/1951年東京都生まれ。専門はフランス文学・思想。東京大学教養学部長、副学長などを務め、現在中部大学特任教授、東京大学名誉教授。『ロートレアモン 越境と創造』など著書多数。2015年に教養学部の学位伝達式で読んだ式辞が大きな話題になった。


※画像提供:新潮社

 
  • 書名 東京大学の式辞
  • サブタイトル歴代総長の贈る言葉
  • 監修・編集・著者名著者:石井洋二郎
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2023年3月17日
  • 定価924円(税込)
  • 判型・ページ数新書版
  • ISBN9784106109885

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