酒に色、虚実入り混じる歓楽の街――"盛り場"。昭和から令和にかけて、その場所で生き抜いてきた人々がいる。
『盛り場で生きる 歓楽街の生存者たち』(毎日新聞出版)は、これまで150か所以上の盛り場を訪れ、1000人以上の話を聞いてきた"路地徘徊家"のフリート横田さんが、彼ら、彼女らの人生を描き出したノンフィクションだ。
登場するのは、キャバレー王、ストリッパー、興行師、芸者など、昭和の盛り場の真っ只中に身を置いてきた11人の生き証人たちだ。
歓楽街の闇を告発するノンフィクションは数多ある。しかし、横田さんは本書冒頭で、「これから綴っていく文章は、告発の役目についていない」と断り、盛り場は必ずしも悪と言い切れず、光と影の両方があると説いている。時代を問わずネオンをともし続けてきた街々の過去から、横田さんが描き出そうとするのは、戦後日本の裏面史だ。
第一章に登場する良子さんは、70歳を超えた現在はスナックのママをしており、かつては売れっ子の男娼であった。裕福な家に生まれ育ったが、新宿ゴールデン街の店で初めて女装をしてから人生が大きく変わり始めたという。ハッテン場を渡り歩くようになり、やがて流れ着いたのは、上野の山の上の「魔窟」と呼ばれたバラックの娼館〈竹の台会館〉。現在は跡形もない会館に、当時息づいていた盛り場の熱気とは。
横田さんが取材した何人もが、「ここまで生きてきたから、もう恥ずかしいものはないよ」と人生を語ってくれたという。竹の台会館のように、盛り場の歴史の多くは、街自体にも文献にもほとんど残っていない。確かにあったその歴史の証言を、「いつか意義が出てくるように」と本書は伝えている。
【目次】
はじめに
「親兄弟捨ててでも、私はやりたかった」
第一章 良子(元男娼)
男娼も暮らした竹の台会館の生き証人
「一人で踊るようになったとき、やっぱり楽しかったの」
第二章 マリア(ストリッパー)
昭和から令和へ、スポットライトの下の人生
「私は、ピンクです」
第三章 朴弘仙(パクホンソン)(元韓国クラブ経営者)
日本と南北の狭間を毅然と生き抜く
「ちゃんとした『ゲイの最初の教科書』を作ってみたかったの」
第四章 平井孝(雑誌「バディ」発行人)
新宿二丁目文化のパトロン
「悲しい顔してる女なんて、一人もいなかった」
第五章 ナツコ(元トルコ嬢)
昭和を駆け抜けた色街の女
「サガ、ということですね。男はバカな動物だな、って」
第六章 九重雅貴(花柳病と対峙した医師)
色街の基督(キリスト)
「おれは今太閤になる」
第七章 塚口悟(元キャバレー経営者)
城西の覇王、おおいに語る
「一番の夢はハウスだったね。フィリピン人はみんながいると楽しいから」
第八章 ジャッキー(フィリピンパブ嬢)
盛り場で夢を叶えたフィリピーナ
「お前ら見てみい、どっちがナンバーワンや?」
第九章 テディ団(世界大会優勝のダンサー)
ソウルダンスの魂
「嘘八百こいたって、お客を入れなきゃいけない」
第十章 西村太吉(興行師・露店商)
東京・興行師の親分の九十年
「お座敷に上がれば、全て忘れる」
第十一章 いく代(芸者)
最後の大塚芸者
おわりに
■フリート横田さんプロフィール
ふりーとよこた/文筆家。路地徘徊家。1979年生まれ。戦後~高度成長期の古老の昔話を求めて盛り場を徘徊。昭和や盛り場にまつわるコラムや連載記事を雑誌やウェブメディアに執筆、TV番組にも出演。著書に『東京ノスタルジック百景』『東京ヤミ市酒場』『昭和トワイライト百景』『横丁の戦後史』など。
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