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芥川賞候補作家・鈴木涼美の本屋の思い出は――「夜遊びのためにトイレで着替えてました」

(企画名)木曜日は本曜日

私の青春時代って、ファッション誌が50万部以上とか売れてた時代なので、女子高生が、例えば文学とか歴史とかに興味がなくても、本屋さんに足を運ぶことはしてたんですよ。
(中略)
少なくとも、例えば1年間本屋さんの門をくぐってないっていうことは、クラスの全員なかったと思います。

 そう語るのは、作家の鈴木涼美さんだ。1983年生まれ、現在39歳の鈴木さん。同世代なら、「本屋の思い出」と聞いて同じようにファッション誌を思い浮かべる人も多いかもしれない。

 「週に1回、木曜日は街の本屋に足を運んでもらおう」と東京都書店商業組合が立ち上げたプロジェクト〈#木曜日は本曜日〉。〈東京○○書店〉と題し、毎週木曜日に著名人・インフルエンサー・作家が「人生を変えた本」を紹介している。これまでに、上白石萌音さん佐久間宣行さん岸田奈美さんらが登場した。

 第10回は〈東京鈴木涼美書店〉だ。元AV女優で、新聞記者を経て作家となり、今年、小説デビュー作『ギフテッド』(文藝春秋)で第167回芥川賞の候補になるという異色の経歴を持つ鈴木さん。両親は翻訳家で、幼い頃から本に囲まれて育った一方、高校生の頃は渋谷の街を遊び歩き、「夜遊びするために本屋のトイレで着替えていた」という"ギャル"だった鈴木さんの、気になる読書遍歴とは。

わかりやすいことだけが価値じゃない

 鈴木さんが1冊目に紹介したのは、金井美恵子さんの『カストロの尻』(新潮社)だ。11の短編が収められており、1作品目の「『この人を見よ』あるいは、ボヴァリー夫人も私だ/破船」はなんと批評エッセイから始まって途中から小説になるなど、ジャンル分けすらしがたい本だ。

 金井作品は、鈴木さんの母で翻訳家の灰島かりさんに勧められて、10代から読み始めたのだそう。金井さんの文体は決して誰にでも読みやすいものではないが、しかしだからこそ価値があると鈴木さんは語る。

全く読者に媚びないっていうかな。そういうところも私は性格に影響を受けているし、わかりやすいことだけが価値じゃないっていうのは、今の若い人はすごく忘れがちなことだと思うんですよ。

 『カストロの尻』には難解な作品や実験的な作品も収録されており、誰にでも勧められるというわけではないが、読書の楽しさに慣れ、わかりやすい本が物足りなくなってきた人にはぜひ勧めたいとのことだ。

世界はクソだったとしても、面白がれる

 2冊目は、井上ひさしさんの『新釈 遠野物語』(新潮社)だ。本書は柳田國男『遠野物語』の冒頭部分にならった書き出しで始まるが、鈴木さんは「単なるパロディと思うべからず」と言う。柳田國男が遠野の人に聞いた逸話・伝承よろしく、井上さんが遠野近くの山の穴に住む老人から聞いたのは、腹の皮がよじれるほど奇天烈な小噺の数々だった――。

それこそ本を一回も読んだことがない人が読んでも面白いですよね。誰にでもオススメできる本の1つですね。

 井上さんの本からは、「世界はクソだったとしても、見方によっては面白がることができる」という考え方を学んだという鈴木さん。世界に対してフラストレーションを抱えている人に、特に読んでほしいそうだ。

 動画後半では、東京都渋谷区にある「大盛堂書店」へ。スクランブル交差点に面したこの本屋は、訪れたことがなくても、多くの人が外観を目にしたことがあるだろう。鈴木さんは、渋谷で遊んでいた高校生の頃によく雑誌を買いに来ていたという。

 1階の雑誌コーナーを見た後、2階の文芸書コーナーへ上がる。本棚を見ながら、「藤野可織さん、すごいファンです」「最近、夏目漱石と森鴎外について考えてた」「私、『不思議の国のアリス』のあらゆる翻訳を集めていて......」「サガンとサリンジャー、一時期の大学生は全員読んでたんですよ」と、鈴木さんの話題は尽きない。一緒に本屋を歩いたらさぞ楽しいだろう......という想像が膨らむ。


〈鈴木涼美さんの「人生を変えた本」10冊〉

『カストロの尻』金井美恵子(新潮社)
『新釈 遠野物語』井上ひさし(新潮社)
『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ』橋本治(河出書房新社)
『セロトニン』ミシェル・ウエルベック(河出書房新社)
『母性のディストピア』宇野常寛(集英社)
『構造と力』浅田彰(勁草書房)
『社会学入門』見田宗介(岩波書店)
『コクトー詩集』ジャン・コクトー(新潮社)
『賢者の愛』山田詠美(中央公論新社)
『邪宗門』高橋和巳(河出書房新社)

 〈東京鈴木涼美書店〉の品揃えは、評論と小説が中心。若い女性たちの文化を社会学的に批評し、さらには小説で芥川賞候補にもなった、鈴木さんの視点と感性をつくってきた10冊だ。

 〈東京○○書店〉は毎週木曜日に更新される。次回は誰が登場するのか楽しみだ。

 〈#木曜日は本曜日〉公式サイトはこちら。→https://honyoubi.com/

 また、東京の各書店では〈#木曜日は本曜日〉オリジナルデザインのしおりを配布している。配布店舗の一覧はこちら。→https://honyoubi.com/assets/data/present_shoplist.pdf


〈東京鈴木涼美書店〉しおりデザイン
〈東京鈴木涼美書店〉しおりデザイン

■鈴木涼美さんプロフィール
すずき・すずみ/慶應義塾大学環境情報学部在学中にAV女優としてデビュー。東京大学大学院修士課程修了後、日本経済新聞社に勤務。東京本社地方部都庁担当、総務省記者クラブ、整理部などに所属。著書に『「AV女優」の社会学 なぜ彼女たちは饒舌に自らを語るのか』『オンナの値段』『非・絶滅男女図鑑』『ニッポンのおじさん』『JJとその時代 女のコは雑誌に何を夢見たのか』『娼婦の本棚』『ギフテッド』等がある。


※画像提供:東京都書店商業組合




 


  • 書名 (企画名)木曜日は本曜日
  • 出版社名(主催)東京都書店商業組合

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