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『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』の編集者が、「完璧」と太鼓判を押す小説とは?

(企画名)#木曜日は本曜日

 『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』などの大ヒット漫画を世に送り出している、漫画編集者の林士平(りん・しへい)さん。林さんは、漫画家に「小説を読んだほうがいい」と勧めることが多いという。

そもそも漫画って絵と文字でできてるじゃないですか。絵はまあ、絵を観察して絵を描くことでトレーニングができるけど、セリフ回しとかト書きだったりとかモノローグとかっていうのは、良い文字を読まなければトレーニングできないじゃないですか。それの摂取先がアニメとか映画とか漫画だけなのはちょっともったいない、と。

 林さんがそう語ったのは、「週に1回、木曜日は街の本屋に足を運んでもらおう」と、東京都書店商業組合が立ち上げたプロジェクト〈#木曜日は本曜日〉のインタビューだ。

 〈#木曜日は本曜日〉では現在、毎週木曜日に、著名人・インフルエンサー・作家が「人生を変えた本」を紹介する、〈東京○○書店〉が更新中だ。これまでに登場したのは、上白石萌音さん宇賀なつみさんラランド・ニシダさん佐久間宣行さん岸田奈美さんらだ。第7回で開店した〈東京林士平書店〉には、どんな本が並んだのだろうか。

そんなに嫌悪感を抱くんなら絶対読んでやろう

 林さんが挙げたのは、藤原竜也さん主演の映画でも知られている、高見広春さんの小説『バトル・ロワイアル』(幻冬舎)だ。国家プロジェクトで選ばれた中学3年生の1クラスが、最後の1人になるまで戦い合うというデスゲーム小説。第5回日本ホラー小説大賞の最終候補だったが、審査員から「非常に不愉快」と不評を買い、受賞を逃した。その審査員評が刊行当時の帯になっていたのだが、林さんはその帯を見て「そんなにみんな嫌悪感を抱くんだったら絶対読んでやろう」と思ったのだという。

やっぱり読んだらめっちゃくちゃ面白くて。(中略)企画も完璧、キャラだて完璧、ストーリーの驚きも完璧。(元々の装丁の)一番最後のページ、物語のENDのページが666ページだったことを、強く記憶に残しているというか......悪魔の数字で終われるなんて素晴らしすぎない? っていう。そのために2段組みにしたのかしらって思いながら......記憶にめっちゃ残ってますね。

 林さんは「これに影響されたって言ったら結構やばい」と笑いつつ、「悪趣味な瞬間」を好きになってしまった原因の一つではないかと分析する。今大ブームを巻き起こしている『チェンソーマン』にも残酷なシーンがいくつも登場するが、そこには『バトル・ロワイアル』のエッセンスが入っているのかもしれない。

無気力で空っぽな人間でした

 さらに林さんは、村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』(文藝春秋)の、コンビニバイト歴18年の主人公の心情が「めっちゃわかる」と語った。高校生の頃にしていたマクドナルドでのアルバイトを思い出したのだそうだ。

気が狂ったようにずっと働いてた時期があって、なんかすげえ救われてたんですよ、労働に。機械になるんですよ。完璧な機械になることを追い求めるマニュアルみたいなのがあって、そのマニュアルをいかにきれいに達成していくかっていうゲームを僕はずっとやってて。何か不思議な快楽を感じたんですよね。それを(『コンビニ人間』は)めっちゃ思い出させてくれたんで。

 漫画編集者というクリエイティブな肩書を見ると、「機械のように働く」ことの快楽に共感している姿は少し意外にも感じる。しかし実は、林さんは編集者になろうと思ったことはなく、就職活動のときに持ち前の「口のうまさ」でいくつか内定を取り、給料の高さで集英社を選んだそうなのだ。「無気力な人間だった」「空っぽだった」とかつての自身を語る林さん。

なんか、クリエイティブな仕事が素晴らしいっていう風潮あるじゃないですか。でも、そんなことないんじゃない? っていう瞬間も僕は、自分の高校生の頃を思うと(あります)。そうじゃない仕事でも幸せに生きられる社会であってほしいなとよく思いますけどね。

 今全国を沸かせている漫画編集者の、「クリエイティブじゃなくてもいい」という考え方。本を通してだからこそ、見ることができた一面なのではないだろうか。

 動画後半では、東京都渋谷区恵比寿にある本屋、「有隣堂アトレ恵比寿店」へ。さすがは編集者、「週何回来てるのかわかんない」というほど本屋に足を運んでいる林さん。マンガ売り場では、最近注目しているという山本和音さんの本を手に取り「好きなんだよな。描いてくれないかな」と呟いたり、小説ハードカバー売り場では、「毎年〈本屋大賞〉にノミネートされた本は全部買ってるんですよ。で、半分くらい読んでランキングの予想をするんですよ」と楽しみ方を披露したり。編集者ならではの本屋の歩き方が窺える。


〈林さんの「人生を変えた本」10冊〉

『二年間の休暇』ジュール・ベルヌ(福音館書店)
『バトル・ロワイアル』高見広春(幻冬舎)
『コンビニ人間』村田沙耶香(文藝春秋)
『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ(早川書房)
『夏の朝の成層圏』池澤夏樹(中央公論新社)
『新世界より』貴志祐介(講談社)
『獣の奏者』上橋菜穂子(講談社)
『アラビアの夜の種族』古川日出男(KADOKAWA)
『クライマーズ・ハイ』横山秀夫(文藝春秋)
『火星の人』アンディ・ウィアー(早川書房)

 〈東京林士平書店〉に選ばれた10冊は、なんと全て小説。名エンターテインメント作品がずらりと並んだ。林さんが世に送り出してきた数々の漫画のルーツを、この中から見つけられるかもしれない。

 〈東京○○書店〉は毎週木曜日に更新される。次回も誰が登場するのか楽しみだ。

 〈#木曜日は本曜日〉公式サイトはこちら。→https://honyoubi.com/

 また、東京の各書店では〈#木曜日は本曜日〉オリジナルデザインのしおりを配布している。配布店舗の一覧はこちら。→https://honyoubi.com/assets/data/present_shoplist.pdf

〈東京林士平書店〉しおりデザイン
〈東京林士平書店〉しおりデザイン

■林士平(りん・しへい)さん
2006年、集英社に入社。月刊少年ジャンプ、ジャンプスクエアの編集部を経て、現在は少年ジャンプ+に在籍。現在の担当作品に「チェンソーマン」「SPY×FAMILY」「HEART GEAR」「ダンダダン」などがある。


※画像提供:東京都書店商業組合




 


  • 書名 (企画名)#木曜日は本曜日
  • 出版社名(主催)東京都書店商業組合

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