本を知る。本で知る。

本との出合いも、お茶だけでも。ゆっくりと自分をほどく「twililight」【しあわせのひといき空間 vol.1】

Hariki

Hariki

(店名)twililight(トワイライライト)

 忙しい毎日のあいまに、どこかでひといきつきたくなる。そんな時に、行きたい場所はありますか。

 新連載「しあわせのひといき空間」、第1回の目的地は東京・三軒茶屋。東急電鉄の駅の北口から外に出て、茶沢通りを5分ほど歩き、パン屋のあるビルの階段を上って、3階にあります。

お店の入口

 お店の名前は「twililight(トワイライライト)」。読み間違いかと思ってもう一回読んでも、やっぱりトワイライライト。

ドアのガラスに書いてある「twililight」

 雰囲気のある木製のドアを開けると、そこは本屋です。

店内の様子

 でも振り返ってみると、イラストの額が並んだギャラリーが。

併設のギャラリー

 訪ねた日は、イラストレーターのながしまひろみさんの個展が開かれていました。

 白と木を基調とした空間に、落ち着いた音楽がかかっています。外の世界よりもゆっくりと時間が流れているように感じます。

本屋エリア

 本屋のエリアを見てみましょう。まず、心や体のケアに関する本が目につきます。それから、このあたりはジェンダー関連でしょうか。

ジェンダー関連の本が並んでいる

 文芸書もそろっていて、小説はもちろん、詩集や歌集も充実しています。

歌集を開いてみている

 店長さんの頭の中が見えてくるような品揃えです。この時の目玉は、「セルフケア・セルフラブを考える8冊」。

セルフケア・セルフラブフェア

 本棚をぐるぐる見ていると、なんだか、自分自身とじっくり向き合いたい気持ちになってきます。

 窓辺にはカフェエリアがあります。フードやドリンクはレジでオーダー。本を買わなくても、カフェの利用だけでも歓迎だそうです。ただし、購入前の本は席に持ち込めません。

カフェエリア

 テーブルに置いてあるメニュー表を読んでみると、こんな紹介文が書いてありました。

nicolasのチョコレートと木苺のアイスサンド
\600+ドリンク料金

三度目の告白であなたは吹き出して、ごめんごめんとわたしの背中に腕を回す。あなたの声が体に響いて、まるでお互い裸のようだったね。あなたから伝わる熱に溶けてしまうものがあって、もう一生、恋することなんてないと思った。そんな味。

 どんな味なんだろう、それ。

 まるで詩集でも立ち読みしたような気分。せっかくなのでこちらのアイスサンドと、「たそがれのクリームソーダ」(こちらの紹介文は「ザクロの甘酸っぱさとアイスクリームの甘味」)を頼んでみました。nicolas(ニコラ)は2階のカフェのことだそうです。

「たそがれのクリームソーダ」と「nicolasのチョコレートと木苺のアイスサンド」

 実物を前にすると、なんだかドキドキしてしまいます。

 先にクリームソーダで喉を潤します。ザクロのソーダは、頭がふわっとするような、大人の甘味。対してバニラアイスはまっすぐ、王道。まったく違ったふたつの甘味が、だんだん溶け合っていきます。

 気になるアイスサンドは......こちらのチョコレートアイスも、ほどよくほろ苦くてほどよく甘く、しつこくない大人向けの味です。クッキーの粒の食感も好き。と思っていたら、木苺のソースの甘酸っぱさが飛び込んできました。思わず浮かんだ言葉が「無邪気!」。

 別々のメニューですが、なんだかどちらも大人の面と子どもの面があるような、ふたつの面が混ざっていくような感じ......。そんなことを考えていたら、新しい紹介文が書けてしまいそうです。

しゃべらないけど、誰かがいる場所

 店長の熊谷充紘(くまがい・みつひろ)さんは、もともとフリーで編集やイベント企画をしていたそう。2021年11月頃に、友人のnicolas オーナーから「3階が空いたから何かやってみない?」と誘われたのが、お店を開くきっかけでした。

熊谷充紘さん
熊谷充紘さん
「コロナ禍の間、人に会わないでずっと部屋に閉じこもっていたら、自分の輪郭がどんどんぼやけていってしまう感覚があって。しゃべらなくてもいいけど、誰か知らない人がいて、一緒に時間を過ごす場所が必要だと思ったんです」

 そこで思い浮かんだのが、自分にとってひといきつく場所として好きな本屋とギャラリーとカフェ。「全部やればなんとかやっていけるんじゃないか」と、3つを1つのお店にしたそうです。どれか1つではなく全部やろうと思うのが、熊谷さんらしさなんでしょうか......。

「3つともやっていたら、いろんな人が来てくれますし、いろんな過ごし方が生まれるかなと」

 おすすめの本を聞いてみると、「一番困るんですよね~」と苦笑い。

「全部おすすめするつもりで置いています。その中から、自分の1冊を見つけてほしいです。じっくり探してもらって、惹かれる本があれば。その時間を提供する場だと思っています。ピンとこなければ、お茶でひといきついてから、あとで見てみるのもいいし。それでも見つからなければ、お茶だけして帰ってもいいですし」

 気になる店名の由来も聞いてみました。たそがれの時間が好きで、「トワイライト」という言葉を使いたかったそう。でもそのまま使うとかっこよすぎるので、熊谷さんにとって大事な「余計なことが生活を豊かにする」というメッセージを込められないか......と考えていたある時、世田谷線に乗っていたら、小さな子どものこんな声が聞こえたそうです。「次はさんぢゃんぢゃやです」そこから、トワイライトに余計なライを加えた「トワイライライト」という響きを思いついたのだといいます。

「『トワイライト』と言われることもよくあります。そうやって、間違えてもらえるのもなんだかいいんですよね。店の名前が最初から間違っているので。間違いや失敗って、恥ずかしいとか、怖いと思うじゃないですか。そんな人にとって、間違うことが怖くなくなるきっかけになればいいな......という思いも込めています」

屋上でもひといき

 熊谷さんは、屋上で空を眺めるのが好きなのだそう。階段を上っていくと......。

屋上への階段

 屋上に出る前に、ここにも本棚がありました。こちらに並んでいるのは古本のようです。

4階の本棚

 オシャレな洋書も置いてあります。思わぬ出合いがありそう。

洋書を開いてみている

 屋上には、ゆっくり過ごせるテーブルや椅子が用意されています。本を購入した人、もしくはカフェを利用した人が入れるそうです。

屋上

 茶沢通りがこんなふうに見渡せます。

屋上からの眺め

 この日は8月末で、長居するにはちょっと暑すぎましたが、涼しくなったらここでぼーっとするのもいいかも。熊谷さんの好きなたそがれ時には、こんな景色になります。

日没頃の屋上からの眺め twililight 公式X(旧Twitter)より
twililight 公式X(旧Twitter)より

 トワイライライトから眺めるトワイライト。次は、日が沈む頃に来てみようかな。

 少し立ち止まりたくなった時、普段と違う時間の流れに逃げ込める。そんな、安全基地のような空間でした。


・twililight(トワイライライト)
https://twililight.com/
東京都世田谷区太子堂 4-28-10鈴木ビル3F・屋上
営業時間:12時~21時
店休日:毎週火曜日、毎月第1&第3水曜日


取材・文 Hariki/撮影 元木みゆき




 


  • 書名 (店名)twililight(トワイライライト)

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