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「いい人」は見透かされる。人気エッセイスト・岸田奈美が「ズッコケ三人組」から学んだこと

(企画名)#木曜日は本曜日

 『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』『もうあかんわ日記』などで知られる、作家・エッセイストの岸田奈美さん。実は、本屋の「棚」にこだわりがあるそうで......。

売れてる本だけを並べてると、「書店員さん自分で読んでないな」って思う本があるんですよ。

でも、ちゃんと書店員さんが読んでいて、何かしらを来た人に伝えたいっていうエゴが漏れ出てる棚に出会うと、「あ、この本の隣にこの本を置くんだ!」と(面白いです)。けっこう、たまにそれで「やばい、この本屋は危険だ」っていうところもありますね(笑)

 「週に1回、木曜日は街の本屋に足を運んでもらおう」と、東京都書店商業組合が立ち上げたプロジェクト、〈#木曜日は本曜日〉。現在、毎週木曜日に、著名人・インフルエンサー・作家が「人生を変えた本」を紹介する、〈東京○○書店〉が更新中だ。これまでに上白石萌音さん宇賀なつみさんラランド・ニシダさん佐久間宣行さんらが登場し、それぞれの「人生を変えた本」について語った。

 〈東京岸田奈美書店〉は、第6回で開店。車いす生活を送る母親、ダウン症の弟との日常などをユニークにつづったエッセイで人気の岸田さんだが、これまでどんな本に影響を受けてきたのだろうか?

大事なことがここに全部書いてある

 岸田さんが最初に挙げた本は、那須正幹さん作『ズッコケ文化祭事件』(ポプラ社)。1978年の1巻目刊行から40年以上にわたって、たくさんの子どもたちに愛され続けてきた「ズッコケ三人組」シリーズの中の1冊だ。

 文化祭で劇をすることになったが、脚本が「いい話」すぎてつまらない! と、三人組がオリジナルの脚本を作って上演しようとするストーリー。岸田さんは、「子供をナメていないところ」が好きなのだと語る。

普通子供(向けの物語)だったら、「面白いのできたよ。わーい」で終わりじゃないですか。でも、子供ってやっぱり思ったより賢いし、思ったよりもごまかされないので、「そんなうまくいくわけないじゃん」っていう。

(『ズッコケ文化祭事件』で)子供を一人の人間としてめちゃくちゃ尊重した上で、その上でちゃんと面白いものを書いてるっていうのを見た時に、「人を感動させよう」とか「いい話をしていい人だと思われよう」とか、そういうのって人間はやっぱり見透かすんだなって(気づきました)。

結局のところ、やっぱり自分が本気で面白いと思う、自分が本気で知りたいと思うことを書かないと通用しないよっていう、その厳しさはここ(『ズッコケ文化祭事件』)から学びました。

 なんと岸田さんは、ズッコケ三人組から創作に対する姿勢を学んだのだという。さらに、文庫版のみに収録されている解説にも、岸田さんの胸に響いた内容が。物語では子供たちの奮闘が描かれるが、解説では、学校内での奮闘を「許容している存在」である、担任のタクワン先生について言及しているそうだ。

この先生が3人にこの自由なことをさせるために、どれだけ周りの大人と戦っているかっていうのを解説してくれてるんですよ。

 「創作における大事なことがここに全部書いてある」と絶賛する岸田さん。子供の頃に読んだことがある人も、岸田さんの熱弁を聞けば、もう一度読み返したくなるに違いない。

まだ弟を表現しきれなくて、悔しい

 岸田さんがエッセイを書く上で、とても大きな存在となっている本が、『向田邦子ベスト・エッセイ』(筑摩書房)だ。向田邦子さんのことは、岸田さんのnoteを見出した編集者の、佐渡島庸平さんに教えてもらったという。

(向田さんは)ただただ自分が良かったなとか、何かこれ愛しいなって思うことを、いいも悪いも判断つけずにそのまま書いているんですよ。(中略)人を、地位とかカテゴリーで判断をしていないのに、その人らしさがめっちゃ伝わってくるっていうのがあって。

 向田さんのエッセイをこう読みながら、岸田さんは「私はまだこれができていない」と言う。岸田さんが向田さんの表現にこだわるのには、ある理由があった。

弟の存在が多分、一番大きいですね。私の弟は生まれつきダウン症っていう障がいがあって、4歳年下なんですけど、みんなよりもしゃべれないし、何をするにも動きがゆっくりゆっくりしてるしっていう。

そんな弟なんだけど、私にとってすごく大事なことをいつも教えてくれるし、世の中の変化ってすごい大きいけど、弟はいつも弟のままなんですよ。そこにすごく救われるんですよ。でも、弟を表現する言葉って、私今でもちゃんと見つけられてなくて。その悔しさがずっとあるので。

 多くの人が「助けてあげる存在」だと思いがちな障がいをもつ弟に、「助けてもらっている」という岸田さん。でも、それを人にうまく説明する言葉がまだ見つかっていない。だから、人を地位やカテゴリーで判断せず、その人らしさそのものを描き出している向田さんに、とても憧れているそうなのだ。

東京の本屋の「棚」に「ゾクゾクします......」

 動画後半では、岸田さんが東京の本屋へ。現在京都に住んでいる岸田さんだが、東京でどんな本屋の「棚」と出合ったのだろうか。

 訪れたのは、東京都中央区銀座にある「教文館」。なんと、130年以上の歴史がある本屋だ。岸田さんが目を留めた棚の特集名は、「第7回 ザ・文庫ダービー オレたちはこれを売りたかった! 2022・教文館」。発見した岸田さんは「めちゃくちゃいい!」と目を輝かせる。

 棚には岸田さんが「どれも読んだことない」という文庫本がずらり。さらに、棚の隣には、ダービー出場本の売上スリップがピン留めされ、おどろおどろしさすら感じるテイストに。岸田さんは「思想の強さにゾクゾクします」と満足げ。お気に入りの棚に出合えたようだ。


〈岸田さんの「人生を変えた本」10冊〉

『ズッコケ文化祭事件』那須正幹(ポプラ社)
『波よ聞いてくれ』沙村広明(講談社)
『向田邦子ベスト・エッセイ』向田邦子(筑摩書房)
『こちら葛飾区亀有公園前派出所 56』秋本治(集英社)
『こんとあき』林明子(福音館書店)
『世界は贈与でできている』近内悠太(News Picksパブリッシング)
『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』二村ヒトシ(イースト・プレス)
『もものかんづめ』さくらももこ(集英社)
『LOVE理論』水野敬也(文響社)
『笑える革命』小国士朗(光文社)

 エッセイに実用書、マンガに絵本とジャンルは幅広いが、どれも岸田さんの執筆に対する姿勢やテーマが見えてくるラインアップ。『こち亀』は56巻を選んでいるが、その理由も気になるところだ。

 〈東京○○書店〉は毎週木曜日に更新される。来週は誰の書店が開店するのだろうか。

 〈#木曜日は本曜日〉公式サイトはこちら。→https://honyoubi.com/

 また、東京の各書店では〈#木曜日は本曜日〉オリジナルデザインのしおりを配布している。配布店舗の一覧はこちら。→https://honyoubi.com/assets/data/present_shoplist.pdf

〈東京岸田奈美書店〉しおりデザイン
〈東京岸田奈美書店〉しおりデザイン

■岸田奈美(きしだ・なみ)さん
1991年生まれ、兵庫県神戸市出身。関西学院大学人間福祉学部社会起業学科卒業。在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入。10年に渡り広報部長を務めたのち、作家として独立。世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバルシェイパーズ。Forbesの世界を変える30歳未満の30人「30 UNDER 30 Asia 2021」に選出される。著書に『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)、『もうあかんわ日記』(ライツ社)など。


※画像提供:東京都書店商業組合




 


  • 書名 (企画名)#木曜日は本曜日
  • 出版社名(主催)東京都書店商業組合

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