ジャニーズの5人組アイドルグループ、King&Princeからメンバー3人が来年(2023年)5月に脱退することが電撃発表され、先日話題になったばかりだ。芸能プロダクションの動向がニュースになるようになったのは、芸能プロダクションがそれだけ大きな存在になったからだ。本書『芸能界誕生』(新潮新書)は、「芸能界」というビジネスが、いかにして始まったのかを解き明かした本だ。ナベプロ、ホリプロ、田辺エージェンシー、ジャニーズなどのキーマンの証言を集め、貴重な戦後日本の芸能史となっている。
著者の戸部田誠さんは1978年生まれのライター。ペンネームは「てれびのスキマ」。著書に『タモリ学』『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』などがある。
序章は1958(昭和33)年2月、東京・有楽町の日本劇場、通称・日劇で行われた「日劇ウエスタン・カーニバル」から始まる。平尾昌晃、ミッキー・カーチス、山下敬二郎の3人は「ロカビリー3人男」として売り出され、熱狂的な人気を集めた。7日間で観客動員は延べ4万5000人に達し、社会現象となった。
この関係者たちが、成功と挫折を経て、裏方に転身。それぞれがプロダクションを立ち上げた。つまり、現代日本の「芸能界」は、日劇ウエスタン・カーニバルから始まった、という見立てである。
宮城県の農村に疎開していた老婆と進駐軍の将校との出会いのエピソードが面白い。馬に乗り、道に迷っていた将校が老婆に声をかけると、流ちょうな英語が返ってきた。「うちの嫁はもっともっと英語が達者ですよ」。
老婆が紹介した嫁は、曲直瀬(まなせ)花子。のちに「渡辺プロダクション」を渡邊晋とともに興す美佐の実母だ。花子は通訳兼秘書として進駐軍に迎えられた。
1946年、花子とその夫・正雄が「オリエンタル芸能社」を設立、仙台におけるバンドマン招聘などの進駐軍ビジネスを独占し、東北一帯の進駐軍マーケットを掌握した。このオリエンタル芸能社(のちのマナセプロダクション)こそ、現存する最古の戦後生まれの芸能プロダクションである。
戦後の音楽シーンを牽引していた進駐軍とジャズブームは、1952年のサンフランシスコ講和条約の発効による日本の独立、53年の朝鮮戦争の休戦とともに需要は激減。個人芸能社を含めれば最大100社を超えた芸能社は、わずか30社にまで減った。
ジャズブームが下火になれば、ジャズミュージシャンは失業してしまう。自らプレイヤーだった渡邊晋は、マネジメント業を組織化し、企業化することを考え、55年に渡辺プロダクションを設立した。曲直瀬家の長女、美佐をくどき落とし、結婚資金も会社の運転資金に回したという。
月給制を取り入れるなど、近代的な経営をめざした。冒頭の日劇ウエスタン・カーニバルを主催したのも渡辺プロである。10代から20代の若者たちが歌い踊り狂う。それを見てファンの女性たちが熱狂する。「10代の若者たちが消費者となったことを知らしめたイベントだったのだ」と書いている。
次に2人が狙いを定めたのがテレビだった。「企画制作・渡辺プロダクション」とクレジットすることを条件に、所属タレントのスケジュールを空け、番組が軌道に乗るまでは製作費・出演料はタダでいいという条件で始めたのが、日本テレビの「ザ・ヒットパレード」だった。そこから「和製ポップス」というジャンルが生まれていった。
このように、本書は渡辺プロを軸としながらも、袂を分かった堀威夫のホリプロ、堀のバンドのボーヤからスタートした田邊昭知の田辺エージェンシー、当初は渡辺プロの系列会社としてスタートしたジャニー喜多川のジャニーズ事務所など、さまざまな芸能プロダクションの系譜をたどりながら、現象としての「御三家」ブーム、グループサウンズ(GS)ブームなどを記述していく。複雑な人間関係があり、時にはクーデターのような火花も散った。
「GSはビートルズをまねしたのではなく、ビートルズと同じような方法論でポピュラー音楽を変えた」という作曲家すぎやまこういちさんの見方を紹介している。バンドとボーカルというフォーマットは現在までポピュラー・ミュージックの主流となっている。
また、堀さんはGSによって「経済的にも組織的にも、芸能プロダクションは変質した」と言う。渡辺プロ以外の芸能プロはギリギリの戦いを強いられてきたが、GSブームで経済的に潤い、地盤を固めることができたというのだ。
そして、専属作家制度はGSでほぼ完全に崩壊し、自分たちの歌いたい曲を作るというシンガーソングライターが生まれる引き金にもなった。
芸能プロの消長を追いつつ、テレビ局やレコード会社との力関係の逆転など、構造的な変化にも目配りしている。「いささかその力が強すぎるきらいがあり、様々な歪みが表出し始めている。この力関係は本書で見てきたように一朝一夕で形成されたわけではない。新たな枠組みは、新しい世代の人々が作る必要があるだろう」と結んでいる。
本書の成り立ちには、2人の仕掛人の尽力があった。ハウフルスという制作会社会長の菅原正豊さんと元日本テレビ専務の渡辺弘さんである。テレビの世界がどのようにして生まれたのか。芸能界のルーツを知ることでさらに理解が深まるだろう。
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