「昔話に説教、趣味の講釈、病気自慢に孫自慢。そうかと思えば、無気力、そしてクレーマー」......。
内館牧子さんの『老害の人』(講談社)がベストセラーとなっている。本書は、累計100万部を記録した『終わった人』『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』に続く著者「高齢者小説」第4弾。
「これだから『老害』は」とイラ立つ若い人と、「迷惑なの! と言われても」とこぼす高齢者。どちらの気持ちも汲んで、世代間ギャップをユーモアまじりにリアルに描いている。
「自分がどれほど『老害の人』かということに、当の本人はまったく気づいていないものだ。たとえ、自分が後期高齢者枠にあろうがだ」――。
戸山明代、54歳。まだ「老人」には間がある。明代が考える「老害」第1位は「昔の自慢話」、第2位は「世代交代に抵抗」。85歳になった明代の父・福太郎は、「老害」第1位と第2位を併せ持つ「最強最悪な『老害の人』」だった。
福太郎は、双六やカルタの製作販売会社・雀躍堂(じゃくやくどう)の前社長。10年前、娘婿の純市(じゅんいち)に社長の座を譲り、1度は身を引いた。ところが、「経営戦略室長」という肩書きを勝手に決めて時々出社している。
大昔の自慢話を繰り返しては、周囲をどっと疲れさせる。そんな福太郎の「老害」に、明代も純市も困り果てていた。
「困ったことに『老害の人』の多くは、自分は『余人をもって代え難い人間だ』とまだ思っている。(中略)年を取るほどに自分をアピールしたがる。それは、もう自分の世ではないと気づいているからか。その悲しみのなせるあがきだろうか。いずれ誰もがその道を行く」
福太郎の仲間もまた、「老害の人」たちだった。70代から90代。福太郎を含む5人を、明代は「老害五重奏(クインテット)」と呼ぶ。
昔の自慢話、病気自慢、体力自慢、趣味自慢......各々が自分のパートに夢中で、「これでもか」とかき鳴らす。明代はうんざりしてため息をついた。自分は絶対に「老害」をバラまかないと、肝に銘じる。
するとそこに、クレーム婆・サキが加わった。サキも相当な「老害の人」ではあるが、「日本はどうしてこんな国になったんでしょうねえ。年を取るほどにバカにされ、相手にされなくなるんです」という不平不満は一理あると、読んでいて思った。
「老いるということは、人間の能力を越えた事象ですからね。どうにもならないんです。だけど、若い人はそれがわからない。すぐに老害と言ったり、バカにしたり。そういう時、老人たちが何も感じてないと思ったら、大間違いですよ」
「老害」と罵られる老人は、大人しく引っ込むしかないのか。そんなことはない。福太郎たちの「逆襲」が始まろうとしていた――。
ある日、明代はたまりかねて福太郎に腹の中をぶちまける。自慢話、愚痴、同じ話の繰り返しばかり。迷惑だから同世代の仲間うちで集まってやってくれ、お願いだから引っ込んでくれ、と。言われた福太郎の目からは炎が出ていた。
「年取った人間はそんなに悪いのか。え、そんなに邪魔か。取っちまった年をどうしろってんだ。(中略)バカ娘、教えとく。老人の自慢も説教も昔話も、何もかも老害じゃねえよ」
数日後、雀躍堂の「経営戦略室」のプレートは外された。そこに「若鮎(わかあゆ)サロン」のプレートが掛けられ、リュック姿の老害五重奏の面々がぞろぞろと入っていく。呆然と突っ立っている純市に、福太郎は言った。「老人は老人でまとまれ」と明代に言われたから「老人用サロン」を作ってまとまることにしたのだ、と。
シニアの生活に必要とされる「きょういく(今日行く)」と「きょうよう(今日用)」を手に入れた「老害の人」たち。「若鮎サロンstaff」のロゴ入りTシャツを着て、サロンで始めたのは――?
「鮮やかに逆襲した父親に、明代は思い知らされていた。老人をあなどってはならない。体力も経済力も思考力もないが、先もない。先がないことは強い。何だってやってやれと思うだろう」
内館さんは先日の「徹子の部屋」に出演した際、老害は一方的に悪いものではない、書いてスッキリした、ということを話していた。
老害、劣化、アラ〇〇などの言い方に、もやっとしている人は多いのではないだろうか。実際、長く生きた末に「老害」などと言われたらたまったものではない。本書は「迷惑」の一言で片づけられない「老害」の深部に、ズバッと切り込む痛快な1冊。
■内館牧子さんプロフィール
1948年秋田市生まれの東京育ち。武蔵野美術大学卒業後、13年半のOL生活を経て、1988年脚本家としてデビュー。1991年ギャラクシー賞、1993年第1回橋田壽賀子賞(「ひらり」)、1995年文化庁芸術作品賞(「てやんでえッ!!」)、日本作詩大賞(唄:小林旭/腕に虹だけ)、2001年放送文化基金賞(「私の青空」)、2011年第51回モンテカルロテレビ祭テレビフィルム部門最優秀作品賞およびモナコ赤十字賞(「塀の中の中学校」)など受賞多数。小説家、エッセイストとしても活躍し、2015年刊行の小説『終わった人』は2018年に映画化、続く『すぐ死ぬんだから』『今度生まれたら』は、それぞれBSプレミアムで連続ドラマ化された。2000年より10年間横綱審議委員を務め、2003年4月、大相撲研究のため東北大学大学院 に入学、2006年3月修了。その後も研究を続けている。
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