教科書に載っている「文豪」も、その私生活はろくでもなかった――。特にその"生態"がよく見えるのが、彼らの書き遺した手紙だ。『文豪たちのヤバい手紙』(宝島社)は、12人のろくでもない文豪の手紙をたっぷりと紹介している。
中でもひときわ「ヤバい」手紙を書いたのが、誰もが知る日本文学史の代表格・太宰治。薬物中毒だった、三度の心中の末に亡くなったなどの強烈なエピソードが有名だが、彼の書いた手紙もまた強烈だった。
太宰の小説「逆行」は、第一回芥川賞の候補となった。太宰は芥川龍之介の大ファンだったため受賞を切願したが、結果は受賞ならず。選考委員だった川端康成が「作者目下の生活に嫌な雲ありて」と、当時薬物中毒に陥っていた太宰の素行を批判したところ、太宰は激怒し、雑誌「文藝通信」で「小鳥を飼い、舞踏をみるのがそんなに立派な生活なのか」と喧嘩を売った。これを受けて川端は、作品の評に私生活を持ち出したことを素直に詫びた。
謝罪されると太宰は手のひらを返し、第二回(二・二六事件の影響で中止)、第三回芥川賞のために、必死に川端にアピールをし始める。そこで送ったのがこんな手紙だ。
困難の一年で ございました
死なずに生きとおして来たことだけでもほめて下さい。
最近やや貧窮、書きにくき手紙のみを多く したためて居ります。よろめいて居ります。私に希望を与えて下さい。老母愚妻をいちど限り喜ばせて下さい。私に名誉を与えて下さい。
このあいだまで喧嘩を売っていた相手に対して急に「生きてることだけでもほめて」......。受け取った川端はどんな気持ちだったのだろう。しかも太宰は結局、芥川賞を受賞することはなかった。
太宰のとんでもない手紙はまだまだたくさんある。たとえば、お金を貸してほしいという手紙にはこんな一文が。
貴兄に五十円ことわられたら、私、死にます。
さらに、師匠と慕っていた井伏鱒二にはこんな手紙を。
私はまた井伏さんを怒らせたのじゃないかしらん。
言葉のままに信じて下さい。
井伏さんと気まずくなったら、私は生きていない。(中略)
井伏さん、私、死にます。
今風に言えば完全に"メンヘラ"だ。そもそも井伏と太宰の交流も、ファンだった太宰が井伏に「会ってくれなければ自殺する」という手紙を送ったことから始まったそう。師として太宰の面倒を見続けた井伏は、相当心が広い人物だったに違いない。
太宰をはじめとして、本書で紹介されている文豪たちはみな、不倫、借金、薬物......とろくでもない人ばかりだ。
(小説家・坂口安吾の手紙)
貴兄から借りたお金返さねばならないと思って要心していたのですが、ゆうべ原稿料を受け取ると友達と会いみんな呑んでしまい、今月お返しできなくなりました。
(歌人・斎藤茂吉の手紙)
ふさ子さん! ふさこさんはなぜこんなにいい女体なのですか。
ろくでもないのに、文章力があるから余計に秀逸な手紙になってしまう。いや、ろくでもないからこそ表現力が磨かれたのか。真剣に書いていたであろう文豪たちには悪いが、どれも腹を抱えて笑ってしまう。
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