あーなんも考えたくない、頭空っぽで笑いたい。そんなときにおすすめの本が、朝井リョウさんのエッセイ集『そして誰もゆとらなくなった』(文藝春秋)だ。直木賞作家のエッセイなんて難しそう? いやいや、朝井さんは小説でこそ難しいテーマも書きこなしているが、エッセイはひたすら、こんな感じだ。
男子トイレにあるたった一つの個室のドアは、閉まっていた。
中に人がいる――そう判断するやいなや、私は便意をもっと優しくあやし始めた。だいじょうぶでちゅよ~、ちょっと待ってれば個室に入れまちゅからね! そんなに焦ることないでちゅよ~ほらもうそろそろ、トイレットペーパーの音とか水が流れる音とかが聞こえてきまちゅよ! そしたらもうすぐでちゅからね~。開かぬなら、開くまで待とう、トイレの個室! なんてね~。
私の渾身のあやしも虚しく、ドアは一向に開く気配を見せない。(中略)
案の定、便意はどんどん自我を持っていった。イメージでいえば、火のついた松明を掲げ、体内のど真ん中にあるうんこの周りをグルグルと駆け回っているような感覚である。もう、どんなあやしも届かない。私の体内で、うんこを祀る奇祭が始まったのである。
内容はとにかくばかばかしい。なのに、文章がとにかくうまい。饒舌すぎる。こんな文章をにやにやしながら書いているのか、はたまた真顔で書いているのか想像しただけで面白い。
特筆すべきは、朝井さんの奇跡的とすら言えるお腹の弱さだ。引用した部分は先輩の送別会での一幕だが、また別のエピソードでは、友人と旅行へ行く際、トイレトラブルを見越して「トイレ税」として朝井さんが旅費を多めに払うという話にまで及ぶ。朝井さんの日々とトイレは切っても切れない関係にあるのだ。
他にも、「すべてが他力本願の引っ越し」「世の中的に『しておくべき』と言われていることをしていないのが不安だという理由で出かけたマチュピチュ・ウユニ湖旅行」「クリスマスの時期にホールケーキを5つ食べた結果......」など、大人気作家の知られざる"残念な日常"が次々と放出される。
朝井さんのジェットコースターのような語り口に乗せられて爆笑しているうちに、あっという間に一冊読み終わって日が暮れているはず。ちなみに本書は、『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』に続くエッセイ第3弾にして完結編だ。やみつきになった方は前2作もぜひ。
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