もうすぐ夏休み、夏休みといえば読書感想文。お子さんにどんな本を勧めようかお悩みのお母さんも多いことだろう。
今年の「青少年読書感想文全国コンクール」課題図書(小学校中学年の部)の一冊に、『みんなのためいき図鑑』(童心社)が選ばれている。タイトルの通り「ためいき」というなかなかなかったテーマの児童書だが、本作はいったいどのようにして生まれたのだろうか。
著者の村上しいこさんは、コロナ禍のなか学童保育で出会った子どもたちが本作を書くきっかけだったと語る。
〈あらすじ〉
小学四年生のたのちんたちは、授業参観のために班ごとにオリジナル図鑑を作ることになった。たのちんの班が作るのは「ためいき図鑑」。人はどんなときにためいきをつくのかを調べて発表するのだ。
班のひとり、加世堂さんは、いつも保健室登校で教室にはめったに来てくれない。加世堂さんもいっしょに図鑑を作れないかと、たのちんはある提案をするのだが、班のほかのメンバーともめてしまって......もうためいきばっかり。どうしてこんなに、ためいきをつきたくなることがたくさんあるんだろう。
著者の村上さんは、コロナ禍のなか「放課後児童クラブ」(学童保育)へ見学に行った。そこで村上さんはためいきをついている子を見て、「あれっ?」と思ったという。「子どもたちは元気なもの」という固定観念があったからだ。
ためいきの理由を聞くと、まず出てきたのは「宿題が多すぎる」という声だった。当時はコロナ初期でプリント学習が中心になっていた時期。「まだ習ってないのに宿題に出された」「オンライン授業だと、先生に質問しても無視される」といった不満を子どもたちは話した。
ほかにも、「体操クラブでできたまめがつぶれて、行きたくないのに今日も練習がある」「田舎のおばあちゃんに会えない」「東京にいるお父さんが戻ってこられなくて、もう半年も会っていない」などなど、さまざまなためいきの理由が。
「僕が誰かを叩くと怒られるのに、どうしてお母さんは僕を叩いてもいいの?」「私たちはなんにもできないのに、どうしておとなはオリンピックをするの?」といった、本質を突くような言葉も。コロナ禍の不自由さを嘆く子どもたちに、村上さんが「そうだよね。みんなどこにも行けないもんね」と言うと、「違う! おとなが飲みに行って感染してる。僕らはどこにも行ってない」と鋭く言い返された。
「小3の女の子が、『子どもには、なんの力もないのに、おとなは何もしてくれない!』と、怒鳴るように言った言葉が忘れられませんでした。」
近年、SDGsなど社会的なテーマを含んだ児童書が増えているが、「それって本当に良かったのかな」と村上さんは考えたという。「さあ子どもたちよ、考えてくれ!」と上から教え諭すのではなく、もっと子どもたちの日常に寄り添う物語を。そんな思いで、本作が誕生した。
できるだけリアルな子どもたちの気持ちを描くため、子どもたちからたくさん話を聞いているという村上さん。本作にはいろいろな気持ちを抱えた子どもたちが登場する。きっと、気持ちに共感できるキャラクターが見つかるはずだ。
子どもたちはためいきとどう向き合い、どう進んでいくのか。算数も理科も社会科も、その答えは教えてくれない。本だからこそ感じられること、考えられることが、本書『みんなのためいき図鑑』には詰まっている。子どもの心の財産になる読書体験を、この夏、ぜひ。
「子どもたちには、まず、たくさんの言葉を知ってほしいし、その言葉を自分のものにして欲しい。言葉が増えるということは、それだけ考える選択肢だとか、自分がやりたいことを考え、気持ちの整理をつける選択肢が増えるということです。それは今を乗り越えて、成長していく力になります。」
「自分の中に気持ちを抱えるのではなくて、ため息をつける相手、ため息を出せる相手をみつけてほしいし、自分のふっと出るためいきを共有できる友達、共感してあげられる友達が増えたらいいなと思っています。」
(村上しいこさんのメッセージ)
著者:村上しいこさん
三重県生まれ。『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)で日本児童文学者協会新人賞、『れいぞうこのなつやすみ』(PHP研究所)でひろすけ童話賞、『うたうとは小さないのちひろいあげ』(講談社)で野間児童文芸賞を受賞。「日曜日の教室」シリーズ(講談社)「わがままおやすみ」シリーズ(PHP研究所)『ねこなんて いなきゃ よかった』(童心社)など著書多数。
絵:中田いくみさん
埼玉県生まれ。絵本に『やましたくんはしゃべらない』(岩崎書店)『ママ、どっちがすき?』(パイ インターナショナル)、挿絵に『きみひろくん』(くもん出版)、装画を手がけた作品に『ぼくだけのぶちまけ日記』(岩波書店)『with you』(くもん出版)、漫画に『つくも神ポンポン』『かもめのことはよく知らない』(いずれもKADOKAWA)など。
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