我が子を銃殺されて嘆き悲しむ女性、国境で愛する家族と別れを惜しむ男性、爆撃されて見る影もなくなった住居に佇む老人――。ウクライナ情勢の残酷なニュースを目にするたびに、胸が痛くなる。遠く離れた日本でこの戦争を「論じる」以外に、私たちには何ができるのか。
6月11日に発売された『中学生から知りたいウクライナのこと』(ミシマ社)は、政治家や学者やジャーナリストが語らない、「ウクライナという国」について、そこに住む人々のこと、歴史、これからどうなっていくのかを理解するための道しるべとなる本だ。
著者は、京都大学大学院人文科の教授でポーランド史が専門の小山哲(さとし)さんと、同大学の人文科准教授で、食と農の歴史を研究している藤原辰史さん。国際関係や軍事技術とは違った角度から、「ウクライナとは」を掘り下げていく。
ミシマ社のウェブサイトで公開されている「まえがき」で、藤原さんは次のように書いている。
歴史がくりかえしてきた重要な問題のひとつは、たとえば日本のような戦場から離れた国に住む人びとの、当事者意識の減退と、関心の低下、そして倦怠ではないか、つまり「胸の痛み」が持続しないことではないか、ということです。
戦争が終わって日常が戻っても、痛みを抱え続ける遺族の存在を忘れてはならない。藤原さんは、「これまで心を痛めていた人たちが、遺族を置き去りにして日常を回復する第二の暴力の加担者になることこそが歴史の常道であり、本書が避けたいと思っている心のありよう」だと述べている。
本書は、小山さんと藤原さんがミシマ社のオンラインイベントで行った講義や対談を再現し、藤原さんがウクライナ侵攻前後に発表したエッセイを加えて編集したもの。黒土地帯、第二次ポーランド分割、コサック...。中学時代に習った(はずの)単語も、下記のようなテーマに沿って「血の通った」歴史として再認識することで、ウクライナ情勢について考えるきっかけをくれる。
・ロシアが絶対に許されない理由...?
・西側諸国、日本が犯してきた罪...?
・「プーチンが悪い」という個人還元主義では、負の連鎖は止まらない...?
対談イベントに参加した人たちからは、次のような声が寄せられている。
・歴史を知ることで、ニュースの解像度が上がり、そこに暮らす人びとの顔が見えてくるような感覚をおぼえました。
・軍事評論家や国際政治学者の解説ではなく、こういう話が聞きたかったです。
・「国」と「人」をいっしょくたにせず、どのように平和を築いていくのか。自分の姿勢を問い直す貴重な機会でした。
本書の内容は以下の通り。
はじめに
Ⅰ ウクライナの人びとに連帯する声明(自由と平和のための京大有志の会)
Ⅱ ウクライナ侵攻について(藤原辰史)
Ⅲ 講義 歴史学者と学ぶウクライナのこと
地域としてのウクライナの歴史(小山哲)
小国を見過ごすことのない歴史の学び方(藤原辰史)
Ⅳ 対談 歴史学者と学ぶウクライナのこと(小山哲・藤原辰史)
Ⅴ 中学生から知りたいウクライナのこと
今こそ構造的暴力を考える(藤原辰史)
ウクライナの歴史をもっと知るための読書案内(小山哲)
おわりに
ニュースやSNSの情報を鵜呑みにするのではなく、自分の頭で考えることが、ウクライナを知る第一歩になる。たとえ戦争が終わったとしても、癒えることのない人々の苦しみに心を寄せ続けていくために、いま、多くの人に手に取ってほしい一冊。
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