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平常心では読めない。「悪魔的に優雅」な情事小説。

情事と事情

 「不倫に嫌悪感を抱いているあなたにも、不倫小説が大好きなあなたにも」――。

 今年デビュー40周年を迎えた小手鞠るいさん。本書『情事と事情』(幻冬舎)は、恋愛小説の名手である小手鞠さんが「大人たちの、上品で下品な恋愛事情、その一部始終」を描いた「悪魔的に優雅な情事小説」。

 フェミニスト気取りの女、美人な装幀家、若さを持て余すピアニスト、幼稚な男たち......。そんな「子供な大人」たちが繰り広げる泥沼の恋愛模様は、複雑に絡み合い、どこまでもエンドレスなのか。そんな予想を180度覆すまさかの結末に、息を呑んだ。

■著者メッセージ
 「だらしない女ときちんとした女。女癖の悪い男と誠実な男。天使と悪魔。結婚と不倫。純愛と情事。あなたは、どっちが好きですか。私はもちろん、だらしない女と、女癖の悪い男と、悪魔と、不倫と、情事です。だって、おもしろいじゃないですか、読むのも書くのも。きちんとした女と誠実な男が結婚したって、つまらない家庭しか築けませんよ」

優雅でだらしない人たち

 本書は、「優雅なお茶の時間」「ちょっと変わったリクエスト」「場違いなロマンティック」「お仕事はここまで」「雨のち晴れ、ときどき淋しい」「それぞれの人生の『ある日』」「情事と事情」の7話構成。

 もともとのタイトルは「だらしない女」。小手鞠さんは「優雅でだらしない女を書こう」と思っていたという。

 登場人物たちは、深入りしなければそこそこまともに見えるかもしれない。しかしその裏で、解き放たれているというか、「だらしない」部分を隠そうともせず、「だらしない」人生を謳歌している。

 たとえば、こんな人たち。実際近くにいたら振り回されそうだが、ワケありで、魅力的でもある。

フェミニスト気取りの女 「月並みな下らない女になりたい」
幸せボケした女 「そんなに好きなら、盗ってしまえば?」
若さをもてあます女 「だらしない人生に乾杯!」
恋愛ベテラン女 「女たちの欠片をつなげていくと、自分になる」
男盛りの男 「結婚できない理由がある。それはひとつではない」
いい男気取りの男 「秘書は賢くてセンスがあって、妊娠しないのが何より」

 登場人物たちの間で、不倫し、不倫され、騙し、騙され、哀れみ、哀れまれ......と、さまざまなドラマが。ここでは、物語の中心にいるふたりの女性を紹介しよう。

「きちんとした女」と「だらしない女」

 彩江子(さえこ)は、38歳のフリーライター。離婚歴あり。恋人はいない。

 彩江子はこれまで、自分を律しながら生きてきた。硬い、融通が利かない、優雅には程遠いことも、自覚している。もう若くはない。老いが容赦なく忍び寄ってくる。「それでもひとりで潔く、我が道を歩いていけるのか」と、自分に問いかける。

 「私は、がんばり過ぎているのではないか。私はもう少し、ゆるんでもいいのではないか。もう少しいい加減に、だらしなくなっても」

 愛里紗(ありさ)は、彩江子の大学時代の同級生。仕事は装幀、趣味は料理とガーデニング。年の離れた夫がいて、優雅な暮らしをしている。年中あくせく働いている彩江子をかわいそうに思いつつ、自分には微塵もない一生懸命さがいいとも思っている。

 「愛里紗が関心を抱いているのは、美しいか否か、それに尽きる。美しいものに囲まれていれば、それだけで幸せ」

 「きちんとした女」と「だらしない女」。生き方が真逆でも、友人関係はそれなりに成立していた。ところが、ひとりの男が現れたことで、様子が変わってくる。

情事の裏には、事情がある

 彩江子と晴人(はると)は仕事の関係で知り合った。ずいぶん年下の、きれいな顔立ちをした晴人に、彩江子はのめり込んでいく。

 「今、この瞬間、自分が目指している理想の女性像なんて返上して、ただの女に成り下がりたいと、彩江子は思っている。どこにでも転がっているような、月並みでだらしない、下らない、ただの女に」

 しかし、晴人が彩江子に近づいたのは、恋愛感情からではなく、別の理由からだった。

 一方、愛里紗は夫の浮気にうっすら気づきながらも、黙認し、そんな夫婦関係でいいと思っている。クールな愛里紗だが、彼女もまた、晴人と知り合い、今とは別の人生を夢想するようになる。

 「夫には恋人がいる。昔もいたし、昔からいたし、今もいる。私にも、いても、いいのかもしれない。いなくても、いいのかもしれない。すでにいる、のかもしれない」
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 人間の「表」と「裏」を、まざまざと見せつけられた。誰しも「表」と「裏」の顔があり、ひょんなことから、それはいとも簡単にひっくり返るのだと。

 「情事の裏には、事情がある。それぞれの事情がある。事情のない情事は、ない」

 そんなことして大丈夫か......と、登場人物を止めに入りたくなる場面もあった。平常心では読めない刺激的な作品。「夢のようなお遊びの果ての――夢の無い現実」は、どうなるのか。


■小手鞠るいさんプロフィール

 1956年岡山県備前市生まれ。同志社大学卒業。1992年よりニューヨーク州在住。詩とメルヘン賞、海燕新人文学賞、島清恋愛文学賞、ボローニャ国際児童図書賞、小学館児童出版文化賞などを受賞。『エンキョリレンアイ』『幸福の一部である不幸を抱いて』『私たちの望むものは』『女性失格』、エッセイ集『空から森が降ってくる』『今夜もそっとおやすみなさい』など著書多数。児童書の作品も多数。1982年、詩集『愛する人にうたいたい』でデビュ―して、今年で物書き人生40周年を迎える。本作はその記念碑的作品。


※画像提供:幻冬舎



 


  • 書名 情事と事情
  • 監修・編集・著者名小手鞠 るい 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2022年5月25日
  • 定価1,980円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・241ページ
  • ISBN9784344039599

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