「光宙」で「ぴかちゅう」、「心愛」で「ここあ」、「王冠」で「てぃあら」......いわゆる「キラキラネーム」は2010年代以降、子どもの名付けに急増し、話題となった。現在もすんなりとは読めない名前も多く、小学校の先生たちは毎年クラス名簿に頭を抱えている。
2022年5月17日、法制審議会が、戸籍の氏名の読み仮名の自由をどこまで認めるかに関して、試案をまとめた。近いうちに、キラキラネームにルールが設けられるようになるかもしれない。
それにしても、なぜキラキラネームなるものが生まれたのだろうか。その理由を探ると、意外な背景が見えてきた。
「心(こころ)」を「ここ」、「愛(あい)」を「あ」と読ませて「心愛(ここあ)」。いかにもイマドキの名前のようだが、このような読ませ方は、実は伝統的な名前の中にも存在する。「修める(おさめる)」の「おさ」で「修巳(おさ+み)」、「有(ゆう)」の「ゆ」だけで「有美子(ゆみこ)」などは、何の驚きもなく読めるだろう。
「光宙(ぴかちゅう)」も、読み方に関して言えば、そう突飛でもない。花札用語だが、「光一(ぴかいち)」という用法が『広辞苑』に採用されている。光一の「光(ぴか)」に訓読みの「宙(ちゅう)」を組み合わせたら、「光宙(ぴかちゅう)」になる。
文筆家の伊東ひとみさんは著書『キラキラネームの大研究』(新潮社)の中で、キラキラネームという現象は、こうした日本語の漢字の読み方に根深く関わっていると指摘している。そもそも日本語は、古来のやまと言葉に中国の漢字を当て、中国語にない読み方で無理に読ませてきた。日本語の漢字は、古くから「キラキラ」しているのだ。
しかしそれにしても疑問は残る。「修巳」「有美子」と「光宙」「心愛」では、そのキラキラ度合は大きく違う。なぜ近年の名前は、急に「キラキラ」し始めたのだろうか?
この「キラキラ」感の始まりは1980年頃。この頃、それまで女の子の名前の主流だった「〇子」や「〇美」が激減し、みか、かおり、みほといった名前が人気になった。命名研究家の牧野恭仁雄さんは、著書『子供の名前が危ない』(ベストセラーズ)の中でこう解説する。1980年前後に親になったのは、子ども時代にテレビが普及した世代だった。テレビから膨大な音とイメージを受け取って育った親は、それまで文字の意味から名付けていた親と違って、名前も音とイメージで名付けるようになる。音に漢字を当てはめれば、新しい名前が無限にできる。こうして日本人の名前の種類は爆発的に増え、今のキラキラネームを生む土台となった。
1980年代から徐々にキラキラしてきた名前が、なぜ2010年代以降、キラキラを爆発させたのか。牧野さんは、この疑問もあざやかに解説している。
かつての日本人の名前ランキングを見ていくと、面白いことがわかる。戦時中、「勝」「勇」「進」など戦いを連想させる名前が増えた。当たり前では? と思うだろうが、さらに細かく見ると、このような名前が増えたのは戦争がうまくいっていたときではなく、1942年、ミッドウェー海戦で日本軍が大敗した後からなのだ。
牧野さんは、名前はその時代の「欠乏感」のあらわれだと指摘する。勝利が手に入らないからこそ、当時の親たちは「勝利が欲しい」と思って、子に勇ましい名前をつけたのだ。
明治や大正の、まだ医療が発達しておらず子どもの死亡率が高かった時代に、女の子の名前で「千代子」や「久子」といった名前が多かったのも同じように説明できる。1980年代のバブルの頃、女の子に「愛」のつく名前が多かったのも、この時代に仕事や勉強の競争が激しくなり、家族など人と人との結びつきが薄れていったこととむすびつけられる。
では、キラキラネームにはどんな欠乏感があらわれているのだろうか。2000年代以降の名前ランキングから一つ指摘できるのは、自然の欠乏感だ。近年の名前ランキング上位には、「陽」「葵」「菜」「海」「空」「蓮」といった自然を連想する字や、「大」「翔」といった開放感のある字が多く使われている。自然を感じられない窮屈な都会で、親たちは自然のイメージを子どもたちに託しているといえる。
もう一つ、奇抜なキラキラネームが生まれる要因がある。個性や自由に対する欠乏感だ。名付け相談を受けている牧野さんのもとに、キラキラネームを持って相談に来る親もたくさんいる。彼らは決して派手な外見はしておらず、ごく平凡な親なのだそう。彼らはがんじがらめの世の中で自己主張できずに育ち、個性や自由への欲求をつのらせて、キラキラネームを付けるのではないか。牧野さんはそう考察している。
キラキラネームを分析すると、日本語の成り立ちや、時代の変遷との面白い関連が見えてきた。私たちが思っている以上に、名前の世界は奥が深いようだ。
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