2022年4月20日、PHP研究所から『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』(小泉悠・著)が発売された。
本書は、『「帝国」ロシアの地政学』で第41回サントリー学芸賞を受賞したロシアの軍事・安全保障政策が専門の小泉悠さんによる、初のロシア・エッセイ。SNSやメディアでの発言が注目を集める著者の最新刊とあって、ネット書店での予約やリアル書店からの注文が急増し、発売前にもかかわらず重版が決定したという。
小泉さんは、ネット上では「ユーリィ・イズムィコ」をはじめとするさまざまな名義でロシアについての情報を発信し、ウクライナ危機が起きてからはテレビにも精力的に出演。また、ちくま新書から発売された『現代ロシアの軍事戦略』がベストセラーになるなど、いま日本でもっとも注目されるロシア専門家の一人として知られている。
元々、「ロシアとロシア人の魅力を、衣食住の面から伝えたい」という企画から始まったという本書。しかし、プーチン大統領の蛮行を目の当たりにした小泉さんは、脱稿直前に構成の変更に踏み切ったという。ウクライナ情勢についての項目を加えるべきだと判断したからだ。『ロシア点描』には、「我々が今、なぜこのような悲劇を目の当たりにしているのかを理解するための補助線になれば」という著者の願いがこめられている。
私はロシア軍事を研究しているので、権威主義的傾向を強めるロシアにはもう危なくて入れません。そうしたわけですから、私が「ロシアの今」について語ることはあまり誠実ではないでしょう。(中略)それでもこの企画をお引き受けしたのは、ロシアという国をやたらに「異質な怖い他者」として見ていたのでは仕方ないだろうと考えたからです。
たしかに国家としてのロシアは時にとんでもないことをします。また、そういう政治はまさにロシア人が作り上げた社会の中から出てくるわけですから、「ロシア政府とロシア人は別」と簡単に割り切ることもできません。では両者の関係がどうなっているのかということを、なるべく柔らかく、わかりやすく理解してもらえるような本にしようと努めました。
(本書「おわりに」より)
2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は、日本人にも大きなショックを与えた。ロシアの軍事専門家である小泉さんがメディアからの出演依頼に時間が許す限り応えているのは、ロシアという国について知ってほしい、誤解してほしくないという思いがあるからだという。本書では、小泉さんがロシアで出会った人々、体験したこと、感じたことなどに焦点があてられ、同時に、プーチン大統領やロシアを取り巻く国際関係についても論じられている。実際にモスクワ生活を経験した小泉さんが、はじめて軍事以外の視点で書いたロシア本だ。
■小泉悠(こいずみ・ゆう)さんプロフィール
東京大学先端科学技術研究センター専任講師。1982年、千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究員、未来工学研究所客員研究員などを経て、2022年1月より現職。ロシアの軍事・安全保障政策が専門。
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