2022年3月26日、KADOKAWAより、マンガ『戦争は女の顔をしていない』(著:小梅けいと、原著:スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ、監修:速水螺旋人)の第3巻が発売された。
原作者のアレクシエーヴィチさんは、ベラルーシ人の父とウクライナ人の母を持ち、ロシア語で作品を書いている1948年生まれのジャーナリスト。『チェルノブイリの祈り』などの傑作ノンフィクションを多数出版し、ジャーナリストとして初めてノーベル文学賞を受賞したが、現在はドイツへ亡命している。ロシアのウクライナ侵攻に対しては、ロシアの作家たちと連名でプーチン大統領を批判する声明を出した。
わたしたちは「男の」戦争観、男の感覚にとらわれている。男の言葉の。女たちは黙っている。わたしをのぞいてだれもおばあちゃんやおかあさんたちにあれこれ問いただした者はいなかった。戦地に行っていた者たちさえ黙っている。もし語り始めても、自分が経験した戦争ではなく、他人が体験した戦争だ。男の規範に合わせて語る。家で、あるいは戦友たちの集まりのときだけに、ちょっと泣いたり、戦争を思い出す。それは、わたしたちが知っているのとはまったく違う戦争だ。 ――『戦争は女の顔をしていない』より。
『戦争は女の顔をしていない』は、アレクシエーヴィチさんが500人以上の従軍女性を取材して書いた第二次世界大戦体験者の証言集。「戦争のことを聞いただけで、それを考えただけでむかつくような」「戦争のことを考えることさえぞっとするような」「将軍たち自身が吐き気をもよおしてしまうような」、そんな本を目指して作られた本書は、完成から2年間、ソ連の兵士や国家に対する中傷だとして出版を拒否され続けたという。
「戦争物はわたしの世代の人たちなら子供時代、青春時代、喜んで読んでいた。それは不思議ではない。わたしたちは勝利の申し子、勝利国の子供たちなのだから」というアレクシエーヴィチさんの言葉からも伺えるように、戦勝国である旧ソ連の戦後世代はナチス・ドイツと戦った過去を誇りとしていて、今でも戦勝記念日には独ソ戦に参加した先祖を讃える大規模パレードが国民的行事として続いている。
だが、アレクシエーヴィチさんが言うには、ロシアで語られるそんな戦争と、当時従軍した女性たちにとっての戦争は違う。
わたしたちが本で読んだり、話で聴いて慣れていること、 英雄的に他の者たちを殺して勝利した、あるいは負けたということはほとんどない。女たちが話すことは別のことだった。「女たちの」戦争にはそれなりの色、臭いがあり、光があり、気持ちが入っていた。そこには英雄もなく信じがたいような手柄もない、人間を越えてしまうようなスケールの事に関わっている人々がいるだけ。そこでは人間たちだけが苦しんでいるのではなく、土も、小鳥たちも、木々も苦しんでいる。地上に生きているもののすべてが、言葉もなく苦しんでいる、だからなお恐ろしい......
――『戦争は女の顔をしていない』より。
ソ連の従軍女性たちは、戦後、「女の癖に戦地に赴いた娘なんて」と社会から敬遠され、多くが戦争に行ったことを隠していたという。男性と女性で、戦争体験の語られ方がまったく違っていたのだ。
漫画版は、『狼と香辛料』のコミカライズなどを手掛けてきた小梅けいとが執筆。『この世界の片隅に』や『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』などに近い、読者が感情移入しやすいやわらかい絵柄で戦争を描くスタイルで、原作の雰囲気が日本人にも伝わりやすいように工夫されている。
表立っては語られない戦争体験はたくさんあるはず。今だからこそ読んでおきたい一冊だ。
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