「くそじじいやくそばばあって、かっこいいんですよ」
『くそじじいとくそばばあの日本史』の著者・大塚ひかりさんはこう断言する。しかし、「おじいさん」と「おばあさん」ならともかく、なぜ「くそじじい」と「くそばばあ」がカッコいいのだろうか。カッコいい人に「くそ」はつかないのではないか。本書は、そんな世間の常識に挑戦している。
昔の人は短命で、老人は三世帯家族の中でのんびり過ごしていた......。大塚さんは、このような老人観を「ステレオタイプ」だと指摘する。
古代の法律(律令)での老人の規定は六十一歳以上、税金を免除されるのは六十五歳以上からだった。年齢だけ見れば、六十歳で定年を迎え、六十五歳から年金を受け取る現代の老人とほとんど変わらない。昔も長生きな老人はたくさんいたのだ。
また、昔の老人たちは、老人になっても働いていた。おじいさんは『桃太郎』では山へ芝刈りへ、『笠地蔵』では笠を売りに町へ出ていたし、おばあさんは七十歳を越えても婚活をしていた。年金もない時代には、庶民は死ぬまで働かなければならなかったからだ。
「のんびり」とは程遠い生活を送っていた老人たちは、姥捨て山の例を出すまでもなく、「社会のお荷物」として冷遇される立場にあり、いわば社会的な弱者だった。
そんな弱者である老人が、「くそじじい・くそばばあ」として社会に反抗する姿はカッコいい。大塚さんは、かつて一世を風靡した漫画『いじわるばあさん』を引き合いに出しながら、その独特の魅力について語っている。
時に小ずるく、時にしたたかに立ち回りながら、命の燃え尽きるぎりぎりまで、持てる力の限りを尽くして生きていた人たちがいた。そんな事実をありのままに伝えることで、(中略)加齢の重圧にくじけそうになる私自身が、爺婆たちの生き方に励まされたいのです。
また「くそ」も、歴史的に見れば、必ずしもマイナスの意味の言葉ではなかったという。古代や中世において、「くそ」は肥料にも使われ、モノを生み出すパワーのあるものとして扱われており、どちらかというとプラスの意味も持っていた。
たとえば、『日本書紀』には「小屎(おくそ)」という名前の人物が出てくるし、桓武天皇の皇子の母にも同じ名前の女性がいたらしい。さらに平安中期の物語では、「くそ」がちゃん付けの「ちゃん」の代わりに、名前の後ろに付ける親しみの証として使われていた事例まであった。「くそ」は、マイナスとプラスの意味をあわせ持つパワフルな単語だったようだ。
そのことを知ってから見ると、タイトルの印象はかなり変わる。「くそじじいとくそばばあ」は、パワフルな老人たちへの憧れを含んだ言葉。そして、本書は、そんな彼らの生き方に学び、笑い、励まされる一冊なのだ。
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