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怒りに巻き込まれないために――アンガーマネジメントのプロに聞く、怒りの対処法(3)

アンガーマネジメントで読み解く なぜ日本人は怒りやすくなったのか?

 アンガーマネジメントの第一人者、安藤俊介さんへのインタビュー。前回は、怒りのコントロール方法について教わった。今回は実践編。家庭や職場でつい怒りがわいてしまう時や、誰かに怒りをぶつけられた時、どうすればよいのか。日常生活でありがちな怒りへの対処法を聞く。

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安藤俊介さん

子育てのイライラは、親の恐怖心が招く

―― 家庭でよく落ち込みがちなのは、子育てが思うようにいかない苛立ちから子どもを叱ってしまうときなのですが。

安藤:親というのは、子育てについて自分が求める正しさがあります。子育てはこうあるべきとか、子どもをこうしつけなければいけないとか、自分が信じる理想や願望ですね。けれど、その裏には恐怖感が隠されているんです。子どもが言うことを聞かなくなったらどうしよう、勉強ができなくて良い学校へ入れなかったら......などという恐怖感。それが強くなるほど、思うようにいかない苛立ちもつのるでしょう。
 もちろん子育てが思うようにいかなくてイライラする気持ちもわかりますが、僕が言いたいのは、親が漠然と抱く恐怖感を子どもに植えつけてはいけないということ。少なくとも自分が何を怖いと思っているのかを認識しておくことはすごく大事ですね。

―― 前回、自己肯定感が低い人は攻撃的になるということも聞きました。日本人、とくに若い人は自己肯定感が低く、それが親から子へ連鎖することを危惧されていますが、子どもの自己肯定感を育てるにはどうしたらいいのでしょう。

安藤:まずは親の恐怖感を子どもに植えつけてしまっているということに気づくこと。それから子どもに対して、基本的にはあるがままの存在として受け入れることです。親はとかくいろんな条件を満たさないと、この子は何か足りないんじゃないかと思いがちですが、減点主義ではなく、何ができているという加点主義で見てあげることが、とても大切だと思います。

アンガーマネジメントの基本は「逃げろ!」

―― 人間関係の悩みとしては、いわれのない嫉妬や陰口に傷ついて、相手への怒りがわいてしまうこともありますね。

安藤:そもそも「いわれのない」ことなのですから、気にしなくていいのですが、やはり気にしちゃうというのもわかります。ならば自分がそこで何ができるかなんですね。アンガーマネジメントには「行動のコントロール」がありますが、僕たちにはできることとできないことがあるんです。相手が勝手に嫉妬しているのをやめさせられるかというと、たぶんできないですよね。明確な理由があれば、そこを突き詰めていけば解消できるかもしれないけれど、いわれのない陰口や嫉妬に対しては、どうにもできないと受け入れる。あとは距離を置くとか、その人と付き合わないことです。

―― とはいえ相手が一人なら距離を置けても、例えばママ友どうしのグループで陰口をいわれたら、自分だけ省かれてしまうのが怖くて離れられないケースもあるのでは?

安藤:ひとつのコミュニティにしか居場所がない人は、そこから省かれたらどうしようという恐怖感があるわけですね。ならば、いろんなところに居場所を作っておくことです。ふだんから自分の居場所の選択肢をいろいろ持っていれば、ここでうまくいかなくても平気と思っていられますから。

―― 職場や組織の中ではパワハラに苦しむ人も後を絶ちません。上司や先輩から理不尽な怒りをぶつけられたら、どう回避したらいいのでしょうか。

安藤:僕はハラスメントの相談も受けています。パワハラ防止のためには闘った方がいいときもありますが、そんなものが横行する職場は必ず潰れます。だから「このまま居続けちゃダメです、さっさと逃げなさい!」と勧めています。
 アンガーマネジメントの基本は「逃げろ!」です。怒りというのは「闘争・逃走反応」ともいわれていて、闘うか、逃げるかの2つの選択肢があります。ところが日本人は、極めて重要な生存戦略の1つである「逃げる」を放棄しているんです。僕らは子どもの頃から、困難に向き合ったときには勇気を持って立ち向かいなさいと教えられ、無理だったら諦めていいとはなかなか言われない。「逃げることはダメなこと」という思い込みもありますね。
 それでも今、自分が属している組織やコミュニティがどうしても辛く、その場に居続けることで自分が病んでしまうなら、その場から逃げることはとても大切な選択なのです。

―― すぐには逃げられないとしたら、嫌な上司にぶつぶつ文句を言われても受け流せるようなコツはありますか。プチ「逃走」できればと(笑)。

 
安藤:とりあえず、「さしすせそ」を使うといいんじゃないでしょうか。「さすがですね」「知らなかったです」「すごいですね」「センスがいいですね」「そうなんですよ」と(笑)。怒りっぽい人は承認欲求が強く、怒っているときは焦りや不安を感じているので、認めてあげることです。

―― 怒りをコントロールするということは、「我慢」することとは違うのですね。

安藤:まず我慢するという行動には、自分の欲求は全部通るという大前提があります。自分がやりたいことや望むことは絶対思い通りになるはずと考えているから、それが叶わないと我慢になってしまう。そこには負けるとか、折れるといったマイナスの感情もあるんですね。でも、自分の欲求が叶わないというのは、別に負けることでも折れることでもありません。その現実を受け入れられるかどうかということが大事です。  一方、コントロールというのは、感情に任せて行動しないということ。怒りという感情に任せて、言ってはいけないことを口にしたり、言わなくてもいいことをぶつけたりするのではなく、冷静に考えて止められることなんです。

違いを受け入れることが、希望につながる

―― 怒りのコントロールについて学ぶことは、自分の生き方を見直すことにもつながりそうですね。

安藤:僕がアンガーマネジメントを学んでいちばん良かったと思うのは、自分と違うものに対する許容度が上がったこと。そのうえで優先順位をつけて行動するようになりました。結局、怒りに振り回されている人は、どうでもいいことに対してすごく怒っている。それで時間もムダにしています。
 日々の生活の中では、自分が関わらなければいけないものと関わらなくてもいいものがあって、その選択は自分でできるわけです。自分の労力や時間をどのくらいかけるかということを取捨選択できる人は、何事もうまくいく可能性が高いですよね。

―― コロナ禍では誰しも不安や焦りを感じ、それが怒りの感情になって何かにぶつけてしまう人もいるのでしょう。こうした時代だからこそ、私たちが心がけると良いことを最後にアドバイスしていただけますか?

安藤:やはり自分の許容度を上げていかないと、多様な人や時代の変化を受け入れることができません。そのためにはいろんな人に関心を持つことが必要です。自分と違うものは怒りや拒絶の対象ではなく、興味の対象として見られるようになれば、今よりもっと人を受け入れられるようになります。
 SNSなども自分と似た人しか集まらなければ、コミュニティはますます狭くなってしまう。自分と違う多様な人にふれることで、世界がすごく広がるわけですよ。  僕は世界の広さが希望の大きさに関わってくると考えています。自分と違うものを受け入れることで選択肢が多くなるから、可能性も広がっていく。それは自分にとって、未来への希望をつなげてくれると思っているのです。

 終始、穏やかに取材に応じてくれた安藤さん。東京から長野へと拠点を移したことで、目に入ってくる情報量が激減したことに気付いたという。近著、『アンガーマネジメントで読み解く なぜ日本人は怒りやすくなったのか』(秀和システム)では、日々怒りを覚えるような情報にあふれた今の時代、どうすれば生きやすくなるのかについて、アンガーマネジメントの手法や考え方を紹介している。「イライラして仕方がない」「なぜあの人はすぐ怒るんだろう」とモヤモヤしている人におすすめだ。

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■安藤俊介さんプロフィール

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。1971年、群馬県生まれ。
2003年に渡米してアンガーマネジメントを学び、日本に導入し第一人者となる。
アメリカに本部を置くナショナルアンガーマネジメント協会では15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人ではただ一人選ばれている。企業、教育委員会、医療機関などで数多くの講演、研修などをおこなっている。
おもな著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『あなたの怒りは武器になる』(河出書房)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)、『アンガーマネジメントを始めよう』(大和書房)などがある。著書はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計70万部を超える。

(取材・文:歌代幸子)


※画像提供:秀和システム


  • 書名 アンガーマネジメントで読み解く なぜ日本人は怒りやすくなったのか?
  • 監修・編集・著者名安藤俊介 著
  • 出版社名秀和システム
  • 出版年月日2022年1月 7日
  • 定価1,650円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・224ページ
  • ISBN9784798065458

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