「おまいらの心臓の音聴いてたら......手のひらが冷たい汗でびっしょりになって......そしたらいきなり地面から半透明のなんかが湧き出てきたんだよ......」
2022年09月08日、元鬼畜漫画家・山野一(やまの はじめ)さんの超大変&ドラマティックな出産・育児コミック『大難産』(文藝春秋)が発売された。
『大難産』は、山野さんが電子書籍で執筆中の育児漫画『そせじ(双生児)』の中で作中連載の形で描かれた作品に、最終回100頁を加えて一冊の読み切りにまとめたもの。
作中で「やすお」として登場する山野さんは、ある優等生の人生の転落を鬱々しく描いた『四丁目の夕日』や、夭逝した漫画家「ねこぢる」の共同制作者だったことで知られる。本作は、山野さん=やすおが50歳目前で難病にかかった双子を授かったところから始まる。
授かった双子は、本来独立しているはずの胎児二人の血管がつながっていて、供血児から受血児へ一方通行で流れている状態の「TTTS(双胎間輸血症候群)」という一卵性双生児特有の病気にかかっていた。そのままにしておくと成長に差が出るだけでなく、様々な症状の原因になるという。
どこの産婦人科医も滅多に遭遇しないというTTTS。治療のため、夫妻はあちこちの病院を転々とすることに。大きな病院ですら「当院での治療は困難」と匙を投げるヤバさに、妻の「クチ子」は「特殊漫画家のお前がせっせと描いた鬼畜漫画のカルマ返りだ」と夫の仕事に難癖をつけ、やすおは「運気がありえない方向に向いてる」から逆に当たるのではと宝くじを買い、夫婦揃って大混乱。
そんな苦難の末、ついに最先端医療設備と名医たちに出会う。絶対に双子を産もうと、クチ子は最先端のレーザー手術に挑み、やすおは風俗ルポ漫画や大学の講師に挑戦することになった――。
実体験をもとにした出産マンガではあるものの、画風などがやたらとサイケデリックで異様な雰囲気を放っている本作。注目したいのは、双子生誕当時もマリファナ情報誌で連載をしていたという、あからさまに不審な男・やすおの存在だ。
もともと育児マンガの一コーナーである以上、双子が無事に生まれてくることは最初から分かっているのだが、やすおの挙動を見ていると、本当にそんな風に話がうまく進むのか不安になってくる。
クチ子の診察中、胎児の心音を耳にしていると、急に窓の外に巨大ミジンコが浮遊する光景が見えはじめる。仕事に詰まって「トラック野郎」シリーズを観ながら泥酔する。真夜中に一人で神社に参拝し、石段から転落する......。双子の奇病よりもやすおの奇行に心が騒いでしまう。
その影響を受けたのか、クチ子にも不思議な出来事が。流産の危険が迫るなか、死去したはずの伯父さんが神主姿で現われ、「なーんもすんぱいね。もーすぐ夜が明けっから」とのたまいはじめて――!? 難産の危険だけでなく、他の部分でもドキドキさせられる、異色の出産ルポマンガだ。
■山野一さんプロフィール
1961年生まれ。立教大学文学部卒。1983年、山野一名義で「ガロ」デビュー。『貧困魔境伝ヒヤパカ』、『混沌大陸パンゲア』、『四丁目の夕日』など異色の単行本を発刊。1990年、当時の伴侶であるねこぢるのデビュー後は、裏方として制作に参加。1998年、ねこぢる死去。以後、ねこぢるy名義で『ねこぢるyうどん』、『おばけアパート 前編』などを執筆。2006年再婚、2008年双子出生。
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