怒りは防衛感情であり、自己肯定感の低い人は怒りやすくなる――。前回のインタビューでは、アンガーマネジメントの第一人者である安藤俊介さんに、「怒り」が生まれるメカニズムやその要因を聞いた。今回は、怒りをマネジメントする方法を具体的に教えていただく。
―― ご著書、『アンガーマネジメントで読み解く なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』(秀和システム)の中で、安藤さんは、もともと自分も怒りっぽいことが強いコンプレックスだったと書かれているのが、気になりました。
安藤:若い頃は負けん気がすごく強くて、職場の人が全員敵でした(笑)。生意気な若者だったので、上司はもちろんのこと誰とでも平気でぶつかってしまう。当時、僕が何を怒っていたかというと、「何で皆、俺のことを邪魔するんだろう」と思っていました。皆が邪魔しなければ、自分は上手くいくはずなのに......と。仕事が上手くいかないジレンマを抱え、心のどこかでは自分に問題があるんじゃないかと薄々感じていた。どうすれば自分のコンプレックスを克服できるのかわからず、葛藤する日々でした。
そんなときアメリカへ駐在で行くことになり、そこで「アンガーマネジメント」というものを知ったのです。実際に講習を受けてみると「これなら俺にもできるな」と思い、トレーニングを受け始めました。
―― アンガーマネジメントというのはどのようなメソッドですか?
安藤:まず「怒り」とは何かを理解することからスタートし、その次に怒りのコントロール法を学びます。アンガーマネジメントには「衝動のコントロール」「思考のコントロール」「行動のコントロール」の3つがあります。
「衝動のコントロール」は、怒りを感じたときに反射をしないこと。例えば「6秒ルール」とは、どんなにイラッとしても、とりあえず6秒待つ、ということを意識します。「思考のコントロール」では、許容していいことと、許容してはダメなことの境界を考えます。何かにイラッとしても、許せることは怒らなくていいし、どうしても許せないことなら怒らなきゃダメなんです。その境界線を決めるのが思考のコントロールですね。
そこで許せないと思ったら、どう行動すればいいか。「行動のコントロール」では、その選択肢を考えます。物事には変えられることもあれば変えられないこともあり、重要なこともあれば、そうでないこともある。そこから「変えられる×重要」「変えられる×重要でない」「変えられない×重要」「変えられない×重要でない」という4つの選択肢になります。変えられることで重要だと思うなら、さっさと取り組もう。変えられなくて重要じゃなければ、放っておこうということですね。
―― アンガーマネジメントとは単に怒りを抑えるのではなく、怒るべきこととそうではないことを見極めて、どう対処するかということなのですね。
安藤:怒りそのものはいらないものではありません。最もまずいのは、怒らなくてもいいことを怒っている状況ですね。じゃあ、ムダに怒らないためにはどうすればいいかというと、ふだんから自分と違うものに対する許容度をあげていくことが大事です。
―― 許容度をあげていくのはさらにハードルが高いのでは?
安藤:すごく簡単な例でいうと、「時間は守るべき」という考えがあります。例えば10時集合というとき、Aさんは10分前には来るべきと考え、それを1分でも遅れるのは絶対に許せないと思う。一方、Bさんは10時までに来ればいいと思っている。するとどちらがイラッとする回数が多くなるかといえば、Aさんですよね。けれどAさんも、10時くらいまでに来ればいいと思えたら、気持ちが楽になるでしょう。それも、せめて9分前、8分前とか、ちょっとずつ許容度を上げていけばいいんです。
―― 安藤さんもこのトレーニングを受けたことで、どんな変化がありましたか?
安藤:周りが皆、敵じゃなくなったというか(笑)。別に周りの人たちは変わっていないけれど、僕自身が変わったことで、皆が僕のことを助けてくれていたことに気づいたんです。それまでは自分で100のことを達成しなければいけないと思いこんでいたけれど、実は70くらいできていれば、うまく進むということがわかった。周りの人を受け容れることができるようになったので、職場でもめちゃくちゃ上手くいきましたよ。
そこで自分もアンガーマネジメントを多くの人に伝えたいと思うようになった安藤さん。著書、『アンガーマネジメントで読み解く なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』の第6章では、「これからの時代をムダに怒らないヒント」として以下の6つを挙げている。本書の内容を要約して紹介する。
ヒント1 6秒ルールを守る
インタビューでも話題に出た6秒ルール。怒りが生まれてから6秒あれば、理性が働くと考えられているという。理性が働くことで、次の「思考のコントロール」のステップへと進むことができる。
ヒント2 共感疲れしない
相手の気持ちに共感するのは良いことだが、度が過ぎると心が疲れてしまうことも。共感疲れしないためには、自分と相手の間に線を引くとよい。その場では共感しても、その場から離れたら忘れる努力をして、引きずらないようにしよう。
ヒント3 白黒で考えない
何事にも白黒つけようとすると、寛容さを失うことになり、怒りの火種を生む原因に。自分と違うものは敵ではなく、そういう人もいると理解し、グレーの存在を認めることで、自分自身の気持ちも楽になる。
ヒント4 正義感はほどほどに
正義には中毒性があり、正義感から怒る人は、基本的に「怒りたい」人ともいえる。世の中にはいろいろな正義があることを理解し、それをバランスよく見られるほうがムダに怒らずに済む。
ヒント5 プライドのために闘わない
あなたのプライドはあなた自身ではない。プライドを傷つけられたからといって自分の価値がさがることはないし、闘わなければいけないわけでもない。無視する、相手にしないという選択肢もある。
ヒント6 融通無碍(むげ)を意識する
融通無碍とは、考えや行動に制限がなく、伸び伸びと自由にしていること。反対に、頑固な人にとって、イレギュラーなことは怒りの火種になる。頑固さやこだわりをゆるめることで、変化に柔軟に対応することができ、ストレスが和らぐ。
次回は、子育てや人づき合い、仕事など、日々の生活で活かせる怒りのコントロール法を聞いてみよう。
怒りに巻き込まれないために――アンガーマネジメントのプロに聞く、怒りの対処法(3)
■安藤俊介さんプロフィール
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。1971年、群馬県生まれ。
2003年に渡米してアンガーマネジメントを学び、日本に導入し第一人者となる。
アメリカに本部を置くナショナルアンガーマネジメント協会では15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人ではただ一人選ばれている。企業、教育委員会、医療機関などで数多くの講演、研修などをおこなっている。
おもな著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『あなたの怒りは武器になる』(河出書房)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)、『アンガーマネジメントを始めよう』(大和書房)などがある。著書はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計70万部を超える。
(取材・文:歌代幸子)
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?