今の世の中、やたらと怒っている人が目につく。テレビをつければ、猛烈な勢いで政治や社会への怒りを論じているし、ネット上ではSNSの炎上も頻発している。日々の生活でも、スーパーのレジでぶつぶつ文句を言う人がいたり、道端で見知らぬ人から怒鳴られたりすることも......。
まさに「怒りの消費大国ニッポン」の現状を解き明かしてくれるのが、『なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』(秀和システム)だ。著者の安藤俊介さんはアンガーマネジメントの第一人者。BOOKウォッチでは、安藤さんにオンラインで取材を行った。1回目のテーマは「怒り」の正体について。なぜ怒ってしまうのか、怒りやすい人の特徴は? 安藤さんに伺った。
―― 身のまわりでも怒っている人が増えていることが気になりますが、安藤さんは今の状況をどう見ていますか?
安藤:たぶん怒りの火種の数自体は今も昔もあまり変わっていないと思います。ただ怒りを炎に例えるならば、その炎の一つひとつが大きくなっているから目につくようになったのでしょう。
怒りが生まれるメカニズムは、ライターの仕組みで説明できます。ライターは着火スイッチをカチッと押すことで火花が散り、その火花にガスが引火して炎が燃え上がる。これを怒りに置き換えると、着火スイッチを押すタイミングは自分が信じている「〇〇べき」を裏切られたときです。例えば、自粛をするべき、家庭はこうあるべき、といった理想や願望を裏切られると火花が散ります。そこで生じたマイナスの感情やストレスがガスとなって引火し、怒りの炎を燃え上がらせるという仕組みになっているのです。
今は多くの人が不安や焦りを感じているし、生活様式が変わったことでストレスを感じている人たちも増えている。つまりガスの量が圧倒的に増えているので、怒りの炎もより大きくなっているのではと考えられます。
―― そもそも怒りの感情はどのような要因で起きるのでしょうか。
安藤:怒りは防衛感情といわれ、動物にも備わっています。動物は目の前に現れた敵に対して、闘うか、逃げるかの選択をします。体を臨戦態勢にするためにはアドレナリンなどのホルモンが必要で、その分泌を促すのが怒りの感情です。怒ることによってホルモンが放出され、体が臨戦態勢になります。その結果、闘うか、逃げるかの選択をして自分を守る。これが怒りの本来の役割ですね。
人間の場合も、怒っている人は先制攻撃をしているのではない。少なくとも自分は攻撃されたと思いこんで、自分の身が危ないから守ろうとして怒っているわけです。今は過剰防衛ともいえるくらい怒っている人も増えていますけれど。
―― 目の前の相手ではなくても、有名人や社会全体へ向けられることも多いですね。
安藤:ツイッターなどを見ていると、怒っている人ばかりと思うくらい、目につきますよね。それは特定の対象ではなく、世の中の考え方や風潮が自分と違うだけで、自分は否定されていると感じる人たちも増えているからです。
今はネットの検索結果も、誰にでも同じものが表示されるわけではなく、その人の趣味嗜好に合うようにカスタマイズされています。例えば、自分が怒りを感じるもの、不愉快になるものを見ている人には、さらに腹の立つニュースが集まるという悪循環に陥っていく。誰かの失言や暴言、不謹慎な行為なども、怒りのターゲットとなりうるのです。
―― 怒りっぽい人にはやはりタイプや性格の傾向があるのでしょうか。
安藤:怒りは防衛感情とお話ししましたが、怒ることで大切なものを守ろうとするわけです。大切なものには価値観や考え方、立場やプライド、家族、仲間などがあり、それが多い人は必然的に怒ることが増える。ことに自己肯定感の低い人は守らなければいけないと思っているものが多く、攻撃的になる傾向があります。
日本人、とくに若い人は自己肯定感が低いといわれています。自分を肯定することが苦手で、それは親世代にも起因することなのです。昭和生まれの世代は、悪いこと、間違ったこと、できないことがあれば怒られるのが当たり前。それが子どもの世代にも連鎖していると思うのです。
安藤さんは、自己肯定感が低くて怒る人には10タイプもいるという。著書、『なぜ日本人は怒りやすくなったのか?』(秀和システム)から一部抜粋して紹介する。
①ダメ出しする人
特徴 人を褒めるよりも、けなすことが得意です。加点主義ではなく減点主義で物事を見たり、人を評価したりします。
②とにかく褒めない人
特徴 できていることは当たり前だから、とくに何かを言う必要がないと思っています。一方で、できていないことについては遠慮なく怒ることができます。褒められた経験がないので、褒める感覚がわかりません。
③マウンティングしてくる人
特徴 自分が相手よりも上である、優位であることを示そうとしてきます。こちらにはマウンティングにならないこともありますが、本人は気にしません。自分が下だと思う相手に切り替えされると、強い怒りをもって屈服させようとします。
④謝らない人、謝れない人
特徴 頑なに自分の非を認めません。自分の非を認めることがあったとしても、それは自分が悪いのではなく、自分がミスをするに至った、まわりや状況が悪いと責任転嫁します。謝ることで自分の価値が下がると思っています。
⑤不機嫌アピールする人
特徴 「話しかけるな」「触れてくれるな」と、自分が不機嫌であることを露骨にアピールします。自分が不機嫌さをアピールすることで、まわりが気をつかってくれたり、助けてくれたりすると思っています。
⑥論破しようとしてくる人
特徴 建設的な議論よりも相手を言い負かす、言いくるめることに価値があると思っています。対話は自分の器が大きくないとできないことですが、自己肯定感の低さは器の小ささでもあり、相手の意見を踏まえて考えることができません。
⑦あおり運転する人
特徴 乗っている車の価値、運転技量の優劣が自分の価値と勘違いしています。価値のある人間だと思い込んでいる自分に対し、意に沿わないことをした人には猛烈に攻撃をします。時にはそれは犯罪的な行為になることもあります。
⑧陰口を言いふらす人
特徴 面と向かって意見を言う勇気のない人です。他人が不幸になることと、自分が幸せになることはイコールではないはずですが、自分の幸せを考えるよりも、他人の不幸のことを優先して考えています。
⑨自分のことではないのにムキになって怒る人
特徴 自分のことを言われているわけでもないのに、さも自分が言われているかのように怒ります。自分からぶつかりにいく当たり屋のような人です。
⑩価値観を押しつけてくる人
特徴 自分の価値観が正しいと、己の価値観を押しつけてきます。こちらが拒否したりすると、「なぜわからないのか」と執拗に怒ります。多様性の時代についていけない人です。
「こういう人、いるいる...!」もしくは、「自分もそうかも」と思い当たる人も多いのでは。本書ではこうしたタイプの人の考え方や対処法をさらに詳しく説明しているので、ぜひ一読してほしい。
次回は、怒りをコントロールする具体的な方法を安藤さんに伺う。(つづく)
ムダに怒らないための6つのヒント――アンガーマネジメントのプロに聞く、怒りの対処法(2)
怒りに巻き込まれないために――アンガーマネジメントのプロに聞く、怒りの対処法(3)
■安藤俊介さんプロフィール
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。アンガーマネジメントコンサルタント。1971年、群馬県生まれ。
2003年に渡米してアンガーマネジメントを学び、日本に導入し第一人者となる。
アメリカに本部を置くナショナルアンガーマネジメント協会では15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルに、アジア人ではただ一人選ばれている。企業、教育委員会、医療機関などで数多くの講演、研修などをおこなっている。
おもな著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『あなたの怒りは武器になる』(河出書房)、『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)、『アンガーマネジメントを始めよう』(大和書房)などがある。著書はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計70万部を超える。
(取材・文:歌代幸子)
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?