夫や子ども、パートナーの些細な言動に対して、突然、爆発したようにキレてしまう。我に返って後悔するのに、同じことを繰り返してしまう――。そう悩んでいる人にお勧めの一冊が、ゲシュタルト療法の第一人者である岡田法悦さんの著書、『キレたくないのにキレてしまうあなたへ』(朝日新聞出版)だ。
マンガ・イラストを担当したのは漫画家の田房永子さん。田房さんも、そんな突然キレてしまうことに悩む一人だった。専門家と悩みの経験者がタッグを組んだ本書には、キレる自分から解放されるために、一人でもできるワークが詳しく解説されている。
誰かに嫌なことを言われたり攻撃されたりして、その場で我慢せず怒りを爆発させて、自分を守るのは「健康的な」キレ方である。問題となるのは、誰かの何気ない一言に刺激されて、昔の傷がぱっくり口を開き、そこから怒りが吹き出てくる場合だ。例えば、夫から「笑顔が見たいなあ」と言われたことをキッカケに、幼い頃に母親からニコニコしていることを強制させられたことを思い出し、ブチギレてしまう...など、本人は意識していなかった、つらい体験に紐づいているケースが多い。
突然キレてしまうのは何故だろうか。岡田さんはその原因を「心の中に湧き出た感情を顔や声に出すのを我慢した結果」と見ている。人の心は意識と無意識に分かれている。無意識の中には押し込まれている感情がたくさんある。無意識を「袋」、その中に押し込まれている過去に押し殺した感情を「水風船」とイメージしてほしい。普段、学校や会社など外で気を張っているときは無意識の袋の口はギュッと締められているが、身近な人がそばにいると、その袋の口が緩んでしまうことがある。そして、何気ない一言が針となり、水風船を爆発させてしまう。これがいきなりキレるメカニズムだ。
誰もが持っているこの心の水風船は、幼い頃から膨らみ始めると言う。例えば、苦手なことを親に強制され、悔しい気持ちを押し殺したとする。この時心の中は、「苦手なこともちゃんとしないと」と自分に我慢を強いる気持ちと、「苦手なことを強制する親なんか大嫌いだ」という怒りの感情が同居していて、心が二つに引き裂かれている状態になる。
岡田さんはこの二律背反な気持ちに対してゲシュタルト療法を用いる。ゲシュタルト療法では「ちゃんと」「ねばならぬ」という心の声を「トップドッグ」と呼び、一方の「でも本当は」という心の声を「アンダードッグ」と呼ぶ。このトップドッグの呪いを自覚して、アンダードッグの自分に気づくことが、ゲシュタルト療法の第一歩だそうだ。
"気づきの心理療法"と言われるゲシュタルト療法は、カウンセリングの一種ではあるが、ちょっと変わっている。特徴は、言葉で聞こえてくる話を聴くだけでなく、からだ全体のおしゃべりを聴くこと。また、カウンセリングという言葉は使わず「ワーク」と表現し、カウンセラーのこともファシリテーターやセラピストと呼ぶそうだ。
人は言葉だけでなく、顔の表情、声の色や抑揚、からだの動きの全部から、一瞬一瞬、感情や感覚を表現しています。......(中略)、ファシリテーターは「今、ギュッとこぶしを握った」とか、「『悲しい』と言いながらニコッとしている」のようにからだの表現を見ています。
例えばゲシュタルト療法では「力が入っている筋肉に口があってしゃべれたら、なんて言いそうですか?」といった質問をする。筋肉のこわばりなどは本人が気づきにくく、指摘されて初めて気づく。ワークを続けていくなかで、感情や感覚を感じ取りながら、それを声に出して表現すると、からだと気持ちに変化が起きてくる。
本書では、ゲシュタルト療法を一人で行う方法を解説している。過去に押し殺した感情と向き合う作業だ。そのため、体調が悪くならないように決して無理せず行うことが推奨されている。また、ゲシュタルト療法の本質は「今ここ」を体験することにあるという。以下は練習の一例だ。
いま目の前に見えるものを心の中で言ってみましょう。それ以外は考えない。これだけです。たとえば、......(中略)「赤いコートを着た女性が見えます。信号が見えます。空が見えます。雲が見えます。葉っぱが見えます......」というふうに。
本書にはこのほかにも様々な練習方法が紹介されている。心に余裕がなくなったときにやってみることをおすすめする。
なお、マンガ・イラストを担当した田房永子さんは、自身の経験を綴った『キレる私をやめたい』(竹書房)も出版している。キレてしまう自分を変えるべく、セラピーや病院を渡り歩いた体験、そして「ゲシュタルト療法」との出会いなどが描かれたこちらの書籍も併せて読んでみてはいかがだろうか。
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