SDGsという言葉もすっかり定着し、持続可能な社会の実現というフレーズもよく聞く現在、改めて、エネルギーについて考えさせられる本がある。
それは、『エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来』(古舘 恒介 著、英治出版)。書籍通販大手のAmazonでもカテゴリ1位(科学史・科学者)に輝く人気作だ。
著者の古舘恒介さんは、冒頭で次のように語りかけている。
「世の中の大抵のことは、エネルギーの切り口で考えてみれば分かりやすく整理でき、腑に落ちる」
そして、そのことを、アインシュタイン博士の有名な公式「E=mc二乗」で説明している。光の速度(c)は不変で、物質の質量(m)は、エネルギー(E)そのものだという。長年エネルギー業界に身を置いてきた著者でも、この当たり前の結論にたどり着くまで、20年以上を要したというから、説得力があり、冒頭でグッと心を引き寄せられる。
本書は4部で構成されている。第1部で「量」、第2部で「知」、第3部で「心」、第4部で「旅の目的地」(まとめ)となっていて、約400ページの分量でもテーマが変化するので飽きずに読むことができる。
エネルギーの歴史を読み進めているつもりでも、まるで人類史であるかのように読み手に伝わってくるのは、長年エネルギー産業にかかわってきた古舘さんの思いの所以だろう。
古舘さんは、JX石油株式会社の技術管理部長(出版時現職)。1994年に慶應義塾大学理工学部を卒業し、日本石油(当時)に入社し、石油の探鉱からリテール販売までを経験しているという。石油事業の上流から下流までを経験した、エネルギーのエキスパート社員だ。
本書の中には、いくつものトピックが紹介されている。その一つに蒸気機関の発明がある。
一般的には「蒸気機関の発明が産業革命をもたらした」という説明が多いが、本書は少し違う。古館さんは、蒸気機関は「気づきをもたらした」ことが重要だというのだ。
その気づきは三つある。
一つめは、熱エネルギーを供給すれば、運動エネルギーに変換できること。
二つめは、投入するエネルギーが大きく、損失も少ないほど、大きなエネルギーに変換できること。
三つめは、エネルギーという目に見えないものを科学的に解明するきっかけをもたらしたこと。
このように、今まで学校でも習い、普通に知っているようなことでも、そのとらえ方が一味違うのが本書の特徴のひとつだろう。
古館さんは、末尾で、フランスのアレクシド・ド・トグウィルの『アメリカのデモクラシー』から一節を引用している。
「(私は)いかなる党派に仕えるつもりもなく、どんな党派とも闘う気もなかった。(略)彼らが明日のことにかまけるのに対して、私は思いを未来に馳せたかった」
持続可能な社会の実現という言葉を頻繁に耳にする今、私たちはエネルギーの旅の真っただ中にいる。本書は、そんな私たちに、エネルギーとどう向き合えばよいのか、「この世のすべては、E=mc二乗」という成り立ちを含めて、たくさんのヒントをもたらしてくれる一冊なのではないだろうか。
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