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ポップコーンを食べる時に、ちょっと考えてみる

フード・マイレージ 新版

 本書『フード・マイレージ 新版』(日本評論社)はちょっと理屈っぽい本だ。ふだんの暮らしで、食べ物をただ食べるだけではなく、どれぐらいの距離を運ばれてきたかを考えましょうというのだ。距離が長くなると、運搬のためにエネルギーを使うことになる。つまり二酸化炭素が排出され、地球環境に負荷を与える。そのことを真剣に考え、食生活を見直しましょう、というのだ。

遠くから大量の食料品を輸入している国

 この考え方を「フード・マイレージ」というそうだ。本書のタイトルにもなっている。日本語で言えば、「食料の輸送距離」。食料の輸送量と輸送距離を掛け合わせた指標だ。遠くから大量の食糧を運べば運ぶほど、数字が大きくなる。「トン・キロメートル」という単位で測定するそうだ。航空機のマイレージは数字が大きいほど見返りがあるが、こちらのマイレージは数字が小さいほど好ましい。

 本書によれば、日本はこの数字が突出して大きい。韓国やアメリカの約3倍、英国やドイツの数倍に達する。日本は食料品の輸入量自体も多いが、それ以上に輸送距離が長い。輸入先を国別に見ると、アメリカからの輸入が59%。さらに、カナダ、オーストラリアを加えると、全体の76%を占めている。3国とも日本から遠いから、マイレージが大きくなる。日本は、遠くから大量の食料品を輸入している国だということが、このフード・マイレージの比較分析でわかる。

 輸入品目では、小麦、トウモロコシ、大豆、なたねが際立つ。この4品目で日本の輸入食料のフード・マイレージの多くを占める。なかでもウエートが大きいのがトウモロコシ。世界最大の輸入国で大半をアメリカから輸入している。主に家畜の飼料用として大量使用されている。このほかポップコーン、コーンフレーク、スナック菓子やコーンスターチ、ウイスキーのような蒸留酒の発酵原料などにも。

地産を高めれば農業に活力

 本書の著者の中田哲也さんは1960年生まれ。大学を出て農水省に入り、様々なセクションを経て農林水産政策研究所で、篠原孝所長(当時。現在は衆議院議員)の指導のもとでフード・マイレージに関する研究に従事した。篠原氏は農水省の本流ではなかったが、有数の理論家であり農業問題の論客として役人時代から知られた人。その薫陶を受けたようだ。

 中田さんは、現在も大臣官房統計部数理官のかたわら、個人的なライフワークとしてフード・マイレージの普及等に取り組む。ネットで「フード・マイレージ資料室」も主宰している。この経歴を見ると、ちょっと変わり種の農水官僚かもしれない。すでに07年に『フード・マイレージ』を刊行しており、今回が新版となる。

 フード・マイレージを小さくするには「地産地消」が望ましい。本書の第4章ではそうした各地の取り組みも紹介されている。

 もちろん本書は、単純な分析では終わらない。日本の総輸入量に占める食材は5%程度。原油、石炭、鉄鉱石など、重たくて遠くから運ばれる輸入品はいくらでもあることも記す。

 ただ食料品は、輸送距離が短いほど腐敗などのリスクが減り、冷凍など余分のエネルギーコストがかからなくなる。地産を高めれば農業に活力を与えることもできる。そうしたことも指摘しつつ、「フード・マイレージ」という考え方の意義を伝える。本書には「Q&A」が設けられ、読者の素朴な疑問にも丁寧に答えている。

 そういえば話題の書『君たちはどう生きるか』で主人公の少年コペル君が「粉ミルク」について考えるくだりがあった。オーストラリアの牛から乳を搾り、工場で粉ミルクにして、箱に詰め、日本まで運んでくる。いったいどれだけの企業と人が関わっているか。商品生産の国際的な仕組みと流通経路に思いをはせる。80年前だから、それだけでもすごいことだったが、現代にコペル君が蘇ったら、きっと「フード・マイレージ」に気付くに違いない。

  • 書名 フード・マイレージ 新版
  • サブタイトルあなたの食が地球を変える
  • 監修・編集・著者名中田哲也 (著)
  • 出版社名日本評論社
  • 出版年月日2018年1月16日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・255ページ
  • ISBN9784535587137
 

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