日経新聞で2018年6月18日から「エネルギー 日本の選択」という連載が始まった。何気なくその一回目を読んで少し驚いた。経済紙だから、さっさと原発を再開しろということかと思ったら、そうでもないのだ。むしろ、相変わらず原発にこだわる日本のエネルギー政策に、厳しく注文を付けるような内容だった。
本書『「脱原発」への攻防――追いつめられる原子力村』(平凡社新書)も同じようにエネルギー問題、とりわけ原発問題を正面から扱っている。タイトルは「攻防」と比較的ニュートラルだが、副題では「追いつめられる原子力村」と一歩踏み込み、帯では「『ムラ』は、ついに壊れはじめた」「脱原発のうねりはもう止まらない」とさらにボルテージを上げる。
著者の小森敦司さんは1964年生まれ。朝日新聞の経済記者。長年、エネルギー問題を取材しているようだ。すでに2016年に『日本はなぜ脱原発できないのか――「原子力村」という利権 』(平凡社新書)を書いており、本書はその続編にあたる。副題を見る限り、前著よりは突っ込んだ表現になっている。それがこの2年間の形勢ということか。
日本の原発は11年の東日本大震災で福島原発が大事故を起こし、安全性が厳しく問われることになった。12年には原子力規制委員会が発足、13年から新規制基準が施行され、電力会社は各プラントが新基準に適合しているのか審査を受けている。時折、原子炉設置変更許可が下りたというニュースが流れ、この6月には九州電力の玄海原発4号機が再稼働した。
粛々と再稼働に向けて進んでいるのかと言えば、状況はそう単純ではない。各種世論調査では再稼働に反対する声が半数を超えている。先ごろの新潟知事選では、自民党が支持する候補が「原発反対派」を僅差で当振り切って当選したが、柏崎刈羽原発の再稼働を争点にしなかった。
本書は6章に分かれ、1、2章は朝日新聞の経済面で掲載した記事を、3、4章では同デジタル面の「核リポート」記事を軸にしている。5章では原発事故被災者の思い、6章では津波対策について書いている。
主に15年から17年にかけての既報を再録しているので、記事によってはやや話が古い印象はあるが、逆に言えば重要なポイントがピックアップされ、原発を巡る状況を的確にトレースできる形になっている。経済記者とはいえ、被災者や裁判の関係もフォローしているので、省庁や産業界とはやや異なるスタンスで、原発問題を多角的に見ることもできる。土俵際に追い詰められた「原子力村」は、今や片足で踏ん張る力もなくしつつある、というのが著者の見立てだ。
冒頭の日経新聞の記事は、経産省がエネルギー基本計画の見直し案で、2030年の電源構成における原発比率を20~22%にしていることに疑問を投げかけていた。再稼働が進まず、新設も難しいにもかかわらず3年前と同じ数字だ。財界の声なども紹介し、「絵空事に近い」と手厳しい。
この記事の中で特に興味深かったのは、「国は原発が最も安い」と言い続けてきたが、本当か、という指摘だ。本書にもそのくだりはあったが、日経が書くと、より深刻だ。
米投資銀行の試算によると、安全対策で費用がかさむ原発の発電コストは1キロワット時あたり約15セントに上昇している。技術革新が進む風力や太陽光は世界で5セント程度になり、コスト面で逆転しているというのだ。記事ではさらに、経産省が基本計画作成でこうした外部の試算を使わないことに対し、原発への逆風がさらに高まることを避けているようだ、と追い打ちをかけていた。
日経新聞からも「思考停止が招く危機」という大見出しでクサされる国のエネルギー政策。たしかに「原子力村」は、メディアからは追い詰められているようだ。
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