カラフルで個性的なファッション、強烈なキャラクターで注目を集め、テレビのバラエティ番組などに出演しているタレントのりゅうちぇるさん。モデル・タレントであるぺこさんのパートナーで一児の父でもある。10月に発売された『こんな世の中で生きていくしかないなら』(朝日新聞出版)は、自身のバックグラウンドをたどりながら、多様性や自己肯定感、人間関係、子育てなどについて率直に綴った初の著書だ。
幼いころから「人と違う」と言われ続け、中学時代には「女子っぽい」とからかわれないように、「なめられない男子」になるために、とにかく「ありのままの自分」を隠していたというりゅうちぇるさん。ときに悩みながらも、自分を大切に生きてきた。本書では、上京・結婚・子育てを経て気づいた、「こんな世の中を生きていくための5つの武器」を提示している。
1. 諦めること
2. 割り切ること
3. 逃げること
4. 戦わないこと
5. 期待しないこと
一見、弱さともとれるこれらの「武器」には、りゅうちぇる流哲学が詰まっている。
昨今注目されている「自己肯定感」という言葉。「自分の存在や価値を肯定できる感覚」のことを指し、関連書籍も多数出版されている。りゅうちぇるさんも自己肯定感を持って生きることは大切だという考えから、子育ての「主軸」にもしているそうだ。
しかし、自分を好きになれない人に向かって「まずは自分のことを愛することから始めよう!」などと言うのは綺麗事なのでは? とりゅうちぇるさんは問う。これまでも、様々な取材で何度も「自己肯定感」について聞かれ、その度に「大人になってから自己肯定感を身につけることや、自分を好きになることは、とても難しいことだと思う」と答えてきた。しかし、記事になったときには「自分を愛することから始めよう」などのキラキラした言葉に変わってしまっていたという。
自分を愛することって、そんなに簡単なことじゃない。自己肯定感の形成は、子どものときに、周りの大人たちがどんな接し方をしてきたかが大きく影響すると言われている。だから、大人になってから自己肯定感を手に入れるのは、並大抵のことではない。
では、どうすれば自分を好きになることができるのだろうか。りゅうちぇるさんは「まずは自分を甘やかすことから始めてみては」と提案している。例えば、今日サボってしまったところ、自分の性格の悪いと思うところなど自分の嫌だと思うところを「それでもいいや」「そんな自分でも許してあげよう」と思うところからスタートしてみる。そうやって甘やかして、許していくうちに、好きになれる部分が出てくると思う、とりゅうちぇるさん。
テレビに出始めた頃、「ジェンダーレス男子」と言われるようになった。言葉だけがひとり歩きしているような感覚があり、違和感を抱いた。カテゴライズすることで、「パーソナルな部分」が見落とされてしまうこともある。ただ、「りゅうちぇるがテレビに出てくれて、『男の子でもこんなふうに生きていっていいんだ』って思えてラクになった」という嬉しい声も届く。「結果的に悪いことばかりではなかった」と前向きにとらえている。
また、「イクメン」という言葉に対しても苦手意識があるという。「イクメン オブ ザ イヤー2018」を受賞したときも、実はモヤモヤしていた。「イクメン」という言葉は、父親が育児をすることが"特別"という印象を与えてしまうからだ。育児をする父親が特別という世界ではなく、当たり前の世界になってほしい、とりゅうちぇるさんは言う。
本書には他にも以下のようなことが書かれている。
<もくじ>
Chapter1 「自己肯定感」なんて簡単に言うけどさ......
Chapter2 「割り切り」と「共感力」
Chapter3 「普通」と「個性」の間で
Chapter4 僕を成長させる
Chapter5 こんな世の中で生きていくしかないなら
多様性だの「らしさ」だのと言いながら、「自分たちと違う何か」を無意識にカテゴライズしようとする「こんな世の中」に、生きづらさを感じているのはりゅうちぇるさんばかりではないだろう。その違和感をまっすぐに見つめ、「そうじゃないけど、戦わない」と胸を張って言える勇気と、自分も他人も甘やかすことのできる寛容さこそ、これからの時代に必要な「武器」なのかもしれない。
<著者プロフィール>
ryuchell りゅうちぇる
タレント、株式会社比嘉企画代表取締役。本名・比嘉龍二。1995年9月29日生まれ、沖縄県出身。ヘアバンドと個性的なファッション、強烈なキャラクターで注目を集め、バラエティ番組などに多数出演。
2016年12月、モデル・タレントのpecoと結婚。2018年にはRYUCHELL名義で歌手デビューを果たしたほか、NHK「高校講座」では「家庭総合」のMCに抜擢される。一児の父となった現在は、育児や多様性に関する発信が注目を集めている。
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