今の時代、非正規雇用での働き方は身近なものとなっている。なんと、約4割、5人に2人が非正規労働者だという。また、最近ではコロナ禍によって、飲食店が相次いで閉店に追い込まれるなど、働く人を取り巻く環境がますます厳しくなっている。
2021年8月23日『不寛容の時代 ボクらは「貧困強制社会」を生きている』(くんぷる)が発売された。
本書は、元北海道新聞社会部記者の藤田和恵さんが、非正規労働者の実態を取材した渾身のルポルタージュである。藤田さんが非正規労働者の取材を開始してから20年。以前と比べて非正規労働者数は急激に増え、今や働く人の約4割が当てはまるという。
弱者の切り捨て、差別、自己責任化する風潮は非正規労働者を苦しめる。最近では、コロナ禍でさらに日本社会の脆弱さが露呈した。
私は、富める者が先に豊かになれば、その後貧しい者にも自然に富がこぼれ落ちていくという「トリクルダウン」という考え方を、"二万%"あり得ないと思っている。これは、長年、労働や貧困問題を取材してきたことによってたどり着いた確信だ。
では少しでも社会をよくしようと思ったら、どうするのか。これはもう「ボトムアップ」しかないのではないか。少しでも貧困のリアルを伝えること。私が貧困問題について書き続ける理由は、もしかしたらこのあたりにもあるのかもしれない。
記者として貧困のリアルを伝えることで、声を上げられないほど追い込まれている人の存在が社会に認知される。その思いから、「社会のいい面を伝えなくては」という忖度なしに、「ありのままの貧困」が綴られている。
待遇格差など非正規雇用にはさまざまな問題があるが、藤田さんは、最大の問題は「働き続けられる保障がないこと」なのではないかと指摘する。たとえば、時給1500円もらえれば月25万円程度とそれなりの収入にはなるが、「数カ月ごとに契約更新を繰り返す細切れ雇用では、将来の計画など立てようがない」という。
私を含め世の中の多くは「飛びぬけた才能があるわけではないけれど、普通に努力をする人々」である。(中略)多くの「普通の人々」にとって、五年後、十年後に同じ職場で働けているか分からない、どの程度の収入があるのか予想もできないような暮らしの中で、結婚や子育て、老後といった将来を語ることは難しい。
もう一つの問題は、「物言わぬ労働者」を増やすことだ。藤野さんは、セクハラの被害者なのに解雇された例や、不正を告発したことによるパワハラ、職場の不祥事に目をつむらないと正規雇用になれない、といった実例を挙げ、こんな状況では「物言わぬ労働者」が増えるのは当たり前だという。程度の差はあれ、非正規で働いたことのある人なら、いつ雇止めになるかもわからない弱い立場で、黒いものを黒と言えないもどかしさを感じたことが、一度はあるのではないだろうか。
最近では、実際は労働者なのに契約上は個人事業主という「名ばかり個人事業主」や、ネット上の仲介サイトから仕事を受けて働く「プラットフォームワーカー」「ギグワーカー」と呼ばれる働き手も増えている。こうした人々には労働基準法が適用されないため、「非正規労働者以上に劣悪な環境で働かされる恐れがある」と藤野さんは危惧する。
一方で、非正規で働く人の中には「波風を立てたくない」「自己責任だから」といって不条理を受け入れてしまう人も少なくないという。そもそも自分がどういう契約で働いているのかを把握していない人も。本書では、さまざまな事例をもとに、貧困の背景にある「働き方」の問題を掘り下げていく。
目次は以下の通り。
はじめに
使い捨てられるアルバイト、契約社員、派遣社員たち
貧困の背景には、働き方の問題がある
手取り一五万円を超えられない四七歳男性の深い闇
妻からも見放された三四歳男性派遣社員の辛酸
「日雇い派遣」で食い繋ぐ三四歳男性の壮絶半生
フリーランスを志す三一歳男性の「夢と現実」
非正規公務員・官製ワーキングプワ
ますますひどくなる官製ワーキングプア
「ないない尽くし」非正規公務員の悲惨な実情
公立病院でブラック労働させられた男性の告発
「困窮支援相談員」の呆れるほどに悲惨な待遇
四八歳「市の臨時職員」超ブラック労働の深刻
月収一二万円で働く三九歳男性司書の矜持と貧苦
五五歳郵便配達員に生活保護が必要な深刻理由
コロナ禍・奈落の底へ
ぎりぎりまで助けてと言えない、広がる社会のいびつさ
コロナ禍がもたらしたもの
「コロナ感染でクビ」三〇歳男性が怯える理由
四〇歳料理人をクビにした社長の酷すぎる言い分
収入ゼロでも「生活保護は恥ずかしい」男の心理
孤独と差別の発達障害
発達障害と貧困
早稲田政経卒「発達障害」二六歳男が訴える不条理
壮絶な「いじめの記憶」に苦しむ四七歳男性の叫び
五〇歳の発達障害男性「社労士合格」に見た希望
「一〇社以上でクビ」発達障害四六歳男性の主張
おわりに
コロナ禍で、いつ貧困に陥るかわからないという恐怖を実感させられた。現在非正規で働いている人だけでなく、誰にでも起こりうる身近な問題として、読んでおきたい一冊。
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