2015年にエッセイ集『傷口から人生。』(幻冬舎)でデビュー、20年には女が男を捕食するという衝撃的なストーリーが話題となった『ピュア』(早川書房)を発表した小野美由紀さん。今年7月に、新作書き下ろし小説『路地裏のウォンビン』(U-NEXT)を上梓した。
本作は、スラムで育って幼いころからスリで身を立てていたルゥとウォンビンの物語。ルゥは両親を流行り病で失い、母の遠縁である叔母を頼って「乞骨街」へやってきた。しかし「自分の食い扶持は自分で稼ぎな」と冷たくあしらわれる。新入りとして、年長の孤児たちに残虐な「洗礼」を受けていたルゥを助けたのがウォンビンだった。
「大丈夫か」
彼は手を差し出した。
「気にすんな、ドゥアはよそ者が嫌いなんだ......特に"混じりもん"が」
混じりもん――その中に彼自身が含まれることに、僕は彼の顔を間近に見て初めて気づいた。考えなしにパーツを転がしたような南方系の顔つきとは明らかに異なる。目鼻の稜線は切り立ち、薄い唇は紅を引いたように赤い。
彼らは、周囲の孤児たちと同様に、生き延びるために汚れ仕事を避けることができない。ペアを組んでスリを繰り返す日々。しかしある日、そんな2人を引き裂く出来事が起きる。ルゥが養父母に引き取られて文化的な生活を手に入れたのだ。しかし、ウォンビンのことが気がかりなルゥ。そして、偶然のめぐり会いから2人の運命は大きく動き始める。非力な2人がもがく先には何があるのか――。
U-NEXT出版部では、noteに著者インタビューを掲載している。
小野さんは、主人公の2人のキャラクターについて、それぞれ次のように話している。
ウォンビンは野心家のように見えて、実は自己犠牲心が人一倍強いんですよね。自分のことなんてどうでもいいと思っていて、だからこそ思い切った行動に出ることも。生きていくためなら、何でもやるタイプです。
一方ルゥは、優しいように見えてエゴイスティック。自分の感情で突っ走っていくタイプです。
そんな2人の関係性について、小野さんは、BLを「めちゃめちゃ意識しました!」と明かす。最近のBLというより、「オールドスタイルのクラシックBLに近い作品」で、BLの定石と言われる定番のシチュエーションが盛り込まれているそうだ。ただ、小野さんとしてはこの物語を「人間と人間の話」として、「お互いが特別な存在であることを際立たせたかった」と語っている。
冒頭のルゥがスリに失敗して男に見つかるシーンは、読者も「ひやり」とさせられる。幸福とは言えない育ちの2人の運命が気になって仕方がない。
■小野 美由紀さんプロフィール
1985年東京生まれ。慶應義塾大学フランス文学専攻卒。
2015年にエッセイ集『傷口から人生。』(幻冬舎)を刊行しデビュー。2020年刊行の『ピュア』(早川書房)は、女が男を捕食するという衝撃的な内容で、WEB発表時から多くの話題をさらった。著書は他に、絵本『ひかりのりゅう』(絵本塾出版)、旅行エッセイ『人生に疲れたらスペイン巡礼』 (光文社新書)、小説『メゾン刻の湯』(ポプラ社)などがある。
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