『神様のカルテ』で2009年に第十回小学館文庫小説賞を受賞した夏川草介さんは、小説家だけでなく内科医としての顔も持つ。そして、現役の医療従事者として1年以上、新型コロナウイルスに立ち向かってきた。
その夏川さんが、新たな小説を上梓した。4月23日発売の『臨床の砦』(小学館)だ。
本書には、2020年末から2021年2月にかけて、夏川さんがコロナ感染症指定病院に勤務し、経験したことが克明に綴られている。
舞台は信州の小さな病院。感染者が増え続け、誰も休めていない状態でも、患者は次々と運び込まれる。ベッドが満員で対応が困難だからと、患者を断るべきなのか。しかし、都市部のようにコロナ患者を受け入れる病院が他にあるわけではない。そこには、地方の病院だからこその困難がある。
本書の内容は以下の通りだ。
これは医療小説ではありません。
コロナウイルスとの、戦争の記録です。
──夏川草介
敷島寛治は、コロナ診療の最前線に立つ信濃山病院の内科医である。一年近くコロナ診療を続けてきたが、令和二年年末から目に見えて感染者が増え始め、酸素化の悪い患者が数多く出てきている。医療従事者たちは、この一年、誰もまともに休みを取れていない。世間では「医療崩壊」寸前と言われているが、現場の印象は「医療壊滅」だ。ベッド数の満床が続き、一般患者の診療にも支障を来すなか、病院は、異様な雰囲気に包まれていた。
「対応が困難だから、患者を断りますか? 病棟が満床だから拒絶すべきですか? 残念ながら、現時点では当院以外に、コロナ患者を受け入れる準備が整っている病院はありません。筑摩野中央を除けば、この一帯にあるすべての病院が、コロナ患者と聞いただけで当院に送り込んでいるのが現実です。ここは、いくらでも代わりの病院がある大都市とは違うのです。当院が拒否すれば、患者に行き場はありません。それでも我々は拒否すべきだと思うのですか?」―本文より
いま、現実に起きている厳しい医療現場の状況がドキュメンタリー小説というかたちで綴られている。読者は最前線でコロナと戦い続ける人々の姿をまざまざと見せつけられる。ニュースで見る映像より、よほどリアルに心に迫ってくる。
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