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日本のコロナ感染者が「ホテル住まい」になった理由

日本の医療の不都合な真実

 コロナ禍で一時、医療崩壊が心配された。入院用の病床が不足気味になり、感染者の一部がホテル住まいを余儀なくされるようなこともあった。日本の医療は大丈夫なのか。本書『日本の医療の不都合な真実――コロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側』 (幻冬舎新書)は、コロナ禍で顕在化した日本の医療システムの問題点を解説している。世界とのズレがいろいろと書かれており、そうだったのか、と驚くことが多い。

医者であり医療経済ジャーナリスト

 著者の森田洋之さんはやや変わった経歴だ。1971年横浜生まれ。いったん一橋大学経済学部を卒業してから、宮崎医科大学医学部で学び、2009年より北海道夕張市立診療所に勤務。同診療所所長を経て、鹿児島県で研究・執筆・診療を中心に活動している。日本内科学会認定内科医、プライマリ・ケア指導医。南日本ヘルスリサーチラボ代表、鹿児島医療介護塾まちづくり部長、元鹿児島県参与(地方創生担当)など多彩な肩書がある。

 2020年、鹿児島県南九州市にクリニックを開業。著書に『破綻からの奇蹟』(南日本ヘルスリサーチラボ)、『医療経済の嘘』(ポプラ新書)がある。

 本書はこの10年以上、折に触れ考え、経験し、情報収集してきた医療問題についての考察をまとめたものだ。影響を与えたのが「コロナ」だ。

東京都はホテルでしのぐ

 冒頭、いくつかのデータが示されている。日本には約160万床の病床がある。これは人口あたりで見たとき、ダントツで世界一の数字だという。ところが新型コロナ感染対策病棟として使用された病床は、全国で3万1000床(2020年7月10日時点)しかなかった。国内全病床の1.9%にとどまっていた。

 とりわけ東京都は、確保していた「病院・病床」2000では足らず、「ホテルなどの宿泊施設」2800を利用して急場をしのいだ。都内には12万床もあるのにもかかわらず、ごく一部しか感染症病床として使うことができなかったという。これはどういうことなのか。

 その理由を、森田さんは端的に語っている。日本の病院は「常に満床を目指して運営されており、想定外の事態のために空床を確保しておく余裕が取りにくい」。それゆえ「世界一の潤沢な医療資源を有事の際にスピーディーに運用・活用することができないという医療システム上の問題」があるのだという。

精神科の病床が多い

 本書によると、日本では1970年代の老人医療無料化の後押しもあり、1980~90年代に病床数が世界一になった。人口当たりで日本は現在、イギリスやデンマークの約5倍の病床を持っている。医療機器のCT、MRIの人口当たりの保有台数も日本がトップ。2位を大きく引き離している。

 大量の病床とハイレベルの医療機器。患者からすると頼もしいが、日本の病院をビジネスという観点から見ると、リスクが大きい。病院の建設費や高額医療機器への投資を、患者の治療費で回収しなければならないからだ。そのためには、「常に満床」であることを必要とする。いざ急患が発生しても、地域のどの病院も満床で空きがない――救急車のたらい回しなどが報じられる背景にもなっているという。

 森田さんは、「普段でさえ救急車のたらい回しが問題になるのに、日本の医療機関、民間病院が自主的にコロナパンデミックのために病床を空けることができるでしょうか」と問いかける。

 日本ではとくに、精神科の病床が多い。異次元レベルで世界一。あまりにダントツ過ぎて世界各国からデータを疑われるほどだという。増え続ける高齢認知症患者の受け入れ先にもなっている。

 日本の医療は、「供給過剰・過当競争」。消費者側のコスト意識も低いので、適正量以上に医療が消費される構造になっているというわけだ。

西欧の病院は公立中心

 本書では諸外国との違いも示されている。西欧諸国では一部で医療崩壊が起きたが、入院患者には基本的に病院の病床が使われたという。日本では病院の7割は民間だが、西欧先進国では公立が中心だ。そのため患者を特定病院に集中させるなど、病院・病床の柔軟な運用が可能だった。政府の指示が徹底しやすかったようだ。

 もっとも、コロナ禍では、人口比でいうと、西欧諸国は日本や韓国、中国などの100倍ぐらいの死者が出た。本書ではその理由についても言及している。もちろん、まだ解明されていないが、森田さんは「交差免疫仮説」を紹介している。

 これは、「既存の風邪コロナウイルス」にかかったことのある人の免疫記憶が新型コロナウイルスにも効果的だったのかもしれない、ということ。

 欧米では既存のコロナウイルス(もしくは新型に近い型のウイルス)の流行があまりなかったのに、東アジアではそれがあった。だから東アジアの国民にはすでに集団免疫的なものができあがって、死亡率が100分の1にとどまった、という仮説だ。すでに海外の医学雑誌には、それを示唆する論文が出ているが、まだ検証されていないという。

 いずれにしろ「同じ病気が国によって100倍も死亡率が異なる」ということは、各国の医療体制や対応の違いでは説明がつかない。新型コロナウイルスの最大のミステリーとなっているようだ。

 森田さんはもともと「経済学」を学んでいるので、本書も関連書に比べると、「経済」の角度からのアプローチが際立つ。日本の医療体制と西欧先進国との違いについては、利用者(患者)自身の対応も含めて、繰り返し説明されている。様々なリスクを想定しつつ、限りある医療資源をいかに有効かつ適正に使うか。現状のままでよいのか。国家財政や私たちの税金、健康保険料、介護保険料に直結することでもあり、コロナ禍が去っても、考え続けなければならない難題だ。解決策を探るためのヒントが多く含まれている本だと感じた。

 BOOKウォッチでは関連で、『医学部』(文春新書)、『介護保険が危ない! 』(岩波ブックレット)、『新型コロナ制圧への道』 (朝日新書)、『新型コロナウイルスの真実』 (ベスト新書)、『病が語る日本史』 (講談社学術文庫)、『まんがでわかるカミュ「ペスト」』(宝島社)、『復活の日』(角川文庫)、『PCR検査を巡る攻防――見えざるウイルスの、見えざる戦い』(リーダーズノート)、『新興衰退国ニッポン』 (現代プレミアブック)、『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録 』(東洋文庫)など多数を紹介している。

   

 


  • 書名 日本の医療の不都合な真実
  • サブタイトルコロナ禍で見えた「世界最高レベルの医療」の裏側
  • 監修・編集・著者名森田洋之 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2020年9月30日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・216ページ
  • ISBN9784344986022

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