テレビ美術制作会社に勤務する傍ら、小説家、エッセイストとして活動する燃え殻さん。2021年3月21日に発売された新著『夢に迷って、タクシーを呼んだ』(扶桑社)はジュンク堂書店の文芸書ランキング(池袋本店、3/21~27)で5位に入り、テレビ番組「王様のブランチ」(TBS)で取り上げられるなど、早くも話題を呼んでいる。
日常生活は、基本的に大事件は起こらない。盛大なオチとも無縁だ。だからといって、日常がつまらないわけではない。(中略)僕たちの人生は、なぜか忘れられなかった小さな思い出の集合体でできている。
(「はじめに」より)
本作は、2020年7月に発売されたエッセイ『すべて忘れてしまうから』の完結編だ。自身のままならない日常や周囲の人々を描き、読者の共感を呼んだ前作に続き、今回もいつか忘れてしまう、でも心のどこかに留めておきたい記憶の断片を、抒情的に、時にユーモラスに綴っている。
「王様のブランチ」では本書の中から、燃え殻さんがスピードワゴンの小沢一敬さんから食事に誘われたときのエピソードを紹介していた。
そのエピソードとは......。
待ち合わせの店に向かう途中、小沢さんから「わりい、週刊ベースボール買ってきて」とメッセージがあり、言われた通り雑誌を買って手渡した燃え殻さん。食事を楽しんだ後、会計時に小沢さんが「いいよ。『週刊ベースボール』買ってきてもらったんだから」とごちそうしてくれた。小沢さんは、雑誌を頼んだことを理由に毎回おごってくれるのだという。
「いつか小沢さんに雑誌を買ってきてもらわなければ」
お互いわかっていても口に出さず、やさしさを交換し合う2人の関係に心がほっと温まる。
燃え殻さんの魅力は、自己肯定感の低さを隠さないことかもしれない。人の弱さも、理不尽な出来事も、諦めつつ受け容れてしまう。コロナ禍で「最悪の現実世界」に身を置きながらも、燃え殻さんの言葉は不思議と希望に満ちている。
緊急事態宣言下の六本木で、20年ほど前の「最悪だった時代」を共に過ごした仲間と再会したエピソードには、こう書いている。
「もうダメだ、を言い続けて二十年以上やってきた。正直、今でも言っている。それでもなんとかやってきた。僕たちは思っていたよりもしぶとかった。だからきっと今度もまた、僕たちは大丈夫だ」
だからきっと今度もまた、僕たちは大丈夫だ――。根拠があるような、ないような。でも燃え殻さんにそう言われると、そうかもしれない、と思えてくる。
BOOKウォッチではこれまでに、『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)、『相談の森』(ネコノス)、『すべて忘れてしまうから』(扶桑社)を紹介している。
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