東日本大震災から10年。震災に関する連日の報道を見ていると、当時の経験、時間の体感速度、震災との向き合い方は、人の数だけあるのを感じる。
絵本作家の鈴木邦弘さんは、2015年から原発事故後の福島県双葉郡の取材を開始した。現地を「歩く」ことにこだわり、これまでに帰還困難区域をふくめ、のべ250㎞を踏破。土地の空気を感じ、写真におさめ、それをもとにイラストレーションと絵本の制作をおこなっている。
本書『いぬとふるさと』(旬報社)は、被災地に何度も足を運び、取材を重ねた鈴木さんでなければつくれなかった絵本である。
「あの日から10年――。遠い町でひとりぼっちになった犬は、ある日、故郷をめざした」
2011年3月19日、当時の双葉町長は埼玉県への避難を決断し、1000人以上の住民がさいたまスーパーアリーナへ一時避難したという。
近くに住んでいた鈴木さんは「何かできることはないか」と現地に向かい、介護福祉士としてボランティア登録をした。その脇の駐車場には多くのいわきナンバーの車がとまっていて、そこに犬がつながれていたことをいまもよく憶えているという。
数ヵ月後、鈴木さんは動物愛護センターで一匹の柴犬を引き取った。推定3歳。荒川の河川敷を放浪していたという。
「どこかで人に飼われていたようにも見え、非常に人懐っこい犬だった」
この犬が、主人公の「わたし」である。
未曽有の大惨事となった福島第一原発事故。飼い主とはぐれた「わたし」は、あるとき「おじさん」(鈴木さん)に引き取られ、さいたまでいっしょに暮らすこととなる。
ある日、「おじさん」の車に乗って、「わたし」がやってきたのは――。
「あれ ここは なつかしい潮のかおり なつかしい潮かぜ」
そう、「わたし」のふるさと・福島県双葉郡。しかし、そこで目にしたのは「わたし」の知っている「ふたば」ではなかった。
巻末には、本編の背景を解説するページが設けられている。除染特別地域、帰還困難区域、特定復興再生拠点区域の地図にはじまり、絵本に登場するすべてのスポットが紹介されている。
「国道6号線から見える放射性物質によって大量に汚染された帰還困難区域は、まさに『放置』されたままで、『復興』の欠片もなかった。浜通りで目にしたものを誰かに伝えていかなければ。そう考えたとき、自分にできる手段は絵を描くことだった」
被災地の現実を直視する鈴木さんの鋭いまなざしが、本書を貫いている。震災は人だけでなく、あらゆるいきものにも影響を与えたことに、いまさらながら気づかされた。
震災をリアルタイムで知らない小学生をはじめ、別の視点から震災を見つめ直したいという人に、ぜひいま読んでほしい。
■鈴木邦弘さんプロフィール
1973年生まれ。イラストレーター、絵本作家、介護福祉士。長岡造形大学卒業。第4、6回MOEイラスト絵本大賞入選。
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