本を知る。本で知る。

音楽を聴いて、思い浮かぶ景色ってあるよね。

 知っている音楽が耳に入ると、それにまつわる想い出も一緒によみがえる。
 音楽が想い出を呼び戻すことは広く知られているというが、本書『想起の音楽』(水曜社)によると、音楽は過去の記憶を呼び戻すだけでなく、「現在から未来」にかけても影響するダイナミックさが内在しているという。

写真は、『想起の音楽』(アサダワタル著、水曜社)/撮影:BOOKウォッチ編集部
写真は、『想起の音楽』(アサダワタル著、水曜社)/撮影:BOOKウォッチ編集部

 本書は、著者のアサダワタルさんの博士論文「音楽による想起がもたらすコミュニケーションデザインについての研究」を改稿・加筆したもの。アサダワタルさんは、プロのミュージシャンとしての経験もあり、その見地を地域の課題解決にいかす取り組みを研究し、音楽と想起をキーワードにその可能性を本書に綴っている。

歌声スナック「銀杏」のパワー

 学位論文が元になっているだけあって、フィールドワークも本格的だ。本書には、北九州市の小倉にある歌声スナック「銀杏」が出てくる。もともと電機メーカーに勤務していた入江公子さん(スナック経営者)が、唱歌や童謡が歌える店を目指して開業したこのスナックは、単なるスナックではないのだ。

 詳しい内容は本書に委ねるが、そもそも、スナックでは思い出話で盛り上がることも多く、歌われる楽曲も懐かしいものも多いという。しかし、顧客が望む唱歌や童謡というジャンルは、そもそもカラオケに入っていないことが多かったそうだ。

 そこで、経営者の入江さんは顧客の母校の「校歌のオリジナルカラオケの製作」にとりかかる。入江さんは、ビデオ撮影もオーサリングの技術も習得している。ある意味で、凄腕のスナックのママといっていい。

 入江さんが作成した「校歌のオリジナルカラオケ」は、2015年現在で236曲に及び、九州地区の学校だけでなく東京六大学や関西地方の有名校などもあるという。

 スナック「銀杏」では、同窓会も活発に行われるという。そこで流される「校歌のオリジナルカラオケ」にあわせて、参加者は校歌を歌うのだが、そのときに、参加者は現在の対話や関係性から過去を再発見していて、実は、校歌は「過去とつながりながらも現在を読み替えていくための触媒としての機能」を果たしているという。

 

 本書の帯には「音楽は救うか?」と大きく書かれている。

 本書には、スナック「銀杏」のみならず、「音楽」と「想起」をテーマにアサダワタルさんが研究したさまざまな取り組みが収録されている。音楽が持つ「現在から未来」にかけても影響するダイナミックさとは何か、音楽がどんなものを「救う」と著者は唱えるのか、じっくりと読んでみてはいかがだろうか。

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