2045年には東京都を除く道府県で人口が減少し、43道府県で75歳以上が2割を超えるという推計を、このほど(2018年3月31日)国立社会保障・人口問題研究所が発表した。人口が減り高齢者が増えれば、当然鉄道の利用者は減る。そういう時代に、どう鉄道会社は生き残るかという問題意識で書かれたのが本書『人口減少と鉄道』(朝日新聞出版)だ。著者はJR九州の初代社長を務めた石井幸孝さん。多角経営によって株式上場にまでこぎつけたJR九州の成功のひけつを明らかにしたほか、新幹線を利用した新しい物流のありかたを提案している。
JR九州の元気な経営については、現会長の唐池恒二さんが書いた『本気になって何が悪い』(PHP研究所)でも紹介されているが、唐池さんを鉄道以外の関連事業に送り出したのが石井さんだ。国鉄時代には少数の本社採用のエリートが幅をきかせていた。石井さんはキャリア組を鉄道以外にも配置することによって意識改革を図ったのだ。今では鉄道とならび大型不動産の開発・販売・賃貸業が主な収益源になっているという。
JRグループの中では、JR東日本、JR東海、JR西日本といわゆる「三島会社」JR北海道、JR四国、JR九州の規模や経営環境が大きく異なる。こうしたハンデを乗り越えてJR九州を優良会社に育てた石井さんの話は説得力がある。また九州よりもさらに条件が悪いJR北海道とJR四国への配慮を求める姿勢にも共感がもてる。
さて、本書は単なる回顧にとどまらず、将来への貴重な提言となっている。2050年には2015年より人口が24%も減少し(平成28年版、内閣府「高齢社会白書」)、本州のJR3社も経営が苦しくなっていると石井さんは予測する。リニアの中央新幹線と東海道新幹線をもつJR東海は別として、JR東日本、JR西日本ともにほとんど利益が出なくなっていると見ている。そこで提案しているのが新幹線による拠点物流によって、行き詰っている長距離トラックに代わる画期的な物流システムの構築だ。
実は東海道新幹線でも貨物を運ぶ計画はあったという。しかし、国鉄の経営悪化とともに貨物輸送は将来の課題としてお預けになっていた。
新幹線のダイヤに貨物列車が走る余地があるのか、夜間の保守はできるのか、などの問題点はあるが、いずれもクリアできると石井さんは具体的に解決策を示している。
鉄道は日本列島に張り巡らされた「巨大工場設備」のようなものだ、という。この高度成長の遺産を徹底的に活用することによって、人口減少の時代を乗り切ろうというのだ。それは鉄道だけではなく、利用者である国民のための提案であると思える。
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