見たい映画が始まったと思ったら、いつの間にか上映期間が過ぎていたという経験はないだろうか。
先日、映画「ホテルローヤル」(武正晴 監督)の封切りを知ったが、ふと気付けば、既にほとんどの映画館で上映スケジュールが終了していた。見ておきたかったので心残りだったが、まだ間に合う映画館が見つかったので、ギリギリ駆け込むことができた。
映画「ホテルローヤル」の原作は、同名小説の『ホテルローヤル』(桜木紫乃 著、集英社)。第149回直木賞の受賞作だ。
著者の桜木紫乃さんは、北海道生まれ。2002年に「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。13年に『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞を受賞し、同年、本作『ホテルローヤル』で第149回直木賞を受賞している。
桜木さんが綴る男女の感情や、やるせなさ、弱さをまとった日常、そして、多様な恋の形、その心理描写に引き込まれるファンは多い。
本書は、北の大地、北海道の道東、広大な釧路湿原の側に立つラブホテル「ホテルローヤル」が舞台。
誰しもが非日常を求め、濃厚なひとときを求めにやってくる場所。その非日常の場所で育ち、非日常の人々が通り過ぎていく場所が自分にとっての日常という主人公の雅代。雅代はラブホテルのオーナーの娘で、映画では女優の波瑠さんが演じている。
本書は、そんな雅代の目に映る、ホテルローヤルを訪れたカップルや、出入り業者、従業員、そして家族の生きざまを描き出したストーリー。
そして、さまざまなパターンの婚外恋愛(不倫)が登場するのも特徴的。
「もともと仲のいい夫婦なんかじゃあなかったんだよ」
これは、本書中に登場するセリフの引用だ。この作品を印象付けるフレーズの一つではないだろうか。
さて、本書に登場するカップルの一部を紹介したい。
一組は、法事帰りの中年夫婦。夫と久々に二人きりの時間を過ごしたいと望んだ妻が、ホテルの部屋で泣いてしまう。子育てや親の面倒をみることで、あっという間に過ぎ去ってきた生活を思い起こし、感極まった様子が伝わってくる。そして、その泣いてしまった妻と夫の交わりが、ホテルローヤルでのつかの間の輝きを、とても奥深いものにしている。
そして、もう一組は高校教師と女子高生の組み合わせ。どちらも行き場のない境遇の二人がホテルローヤルにたどり着く。この物語の展開に大きなかかわりを持つカップルだ。
ほかにも、挫折から抜け出そうと夢を追うカメラマンやホテルローヤルの従業員、そして、雅代の両親のストーリーなども綴られている。
本書は、ラブホテルを舞台にした作品だが、描いているのはそこで行われる性的な行為ではなく、その奥にある人々の生き方。それゆえ、読み手によってさまざまな読後感をもたらすだろう。
映画には出てこない描写も当然あるが、本作は、映画が先でも原作が先でも、作品の世界観やストーリーを興味深く味わえるだろう。12月10日まで上映している映画館も複数ある。ワンチャンス、行ってみようという方は感染症対策に気を付けて出かけてみてはいかがだろうか。
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